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あふれる想い

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 体勢を低くしたかと思うと、美汪はその両手で、穏花の両足を開いてみせたのだ。
 当然、穏花は驚き焦り、足を閉じようと力を込めたが微動だにしない。せめて下着が見えないようにとやや上半身を起こしながら、両手でスカートを引っ張るのが精一杯だった。
 地べたに這いつくばるようにして、穏花の股に顔を埋め、その白い内腿に尖った牙を突き立ててゆく美汪。
 穏花には、もう何が起こっているかわからない。
 
「あ、あっ、あ……!」

 太腿の内側に、鈍い痛みが伴う。
 同時に、それを忘れるほどの強烈な羞恥が、穏花を襲う。
 あの美汪が冷静を放棄し、自身の血を狂おしく求め啜り飲む姿。
 それはあまりに不道徳的で、背徳的であり、いけないと思えば思うほど、穏花の心身を奪い釘付けにした。

 ――私の血が、美汪に溶ける、美汪の一部になっていく――。

 痣になるほど強く吸われては、また咬みつかれ、その度に穏花の身体は電気が走ったように振動し、熱い吐息が漏れる。
 美汪の唇が触れた場所から蜜のように甘美な毒が広がってゆく。
 純潔な少女にとってあまりに刺激の強いその体験は、恐怖に似た戸惑いを与えた。

「あ……やめ、て、美汪……こ……怖いっ……」

 ようやく視線を合わせた美汪が見たものは、蚊の鳴くような声で拒絶を示し、涙を流す穏花の姿だった。

 美汪の中で、時が止まった。
 
 足を掴む力が緩むと、穏花は急ぎ立ち上がり、突き飛ばされた際に転がった書物を抱えて回廊を走り去った。
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