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あふれる想い
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「何してるの、花を吐きそうなの?」
珍妙な動物でも見るような目で美汪に言われ、必死に首を横に振る穏花。
「い、いやっ、あの、もっとすごいのが、出そう、で」
「心臓でも吐く気?」
「えっ!? 棘病って心臓吐くの!?」
「そんなわけないでしょ、冗談だよ、君は本当にからかい甲斐があるね」
悪戯を楽しむ童のように肩を揺らして笑う美汪は、いつもの無表情からは想像できないほど幼く、無垢だった。
「……み、美汪って……笑うと、なんか……可愛い、ね」
我慢できずにそんな言葉が口をついて出てしまうと、急にぴたりと美汪が固まった。
「……は? 今、僕笑ってた?」
「う、うん、だいぶ、けっこう、笑ってたよ?」
「……忘れて」
「なんでぇ!? 忘れないよー!」
「可愛いなんて言われたのは初めてだ……恥じの極み」
笑っている自覚がなかった美汪はショックを受けた風に額に手を当て、自分に対しぶつぶつ文句を言っていた。
しかし、穏花の目にはそんな様子も微笑ましく映っていた。
「……相変わらず砂糖菓子みたいに笑ってるけど、君は自分を不幸だとは思わないの?」
「……え?」
「早くに両親を亡くして、不治の病にかかっている。世間一般的に考えれば、十分不幸の定義に当てはまるんじゃないの?」
そんなことを言われても、穏花はピンとこないといった風に人差し指を顎に当て、宙を見上げ眉間に皺を寄せた。
「そう、言われたらそうなのかな? でもあまり考えたことないかも。辛いとか、悲しいなとかはたくさん思ったりするけど」
「じゃあ、君にとっての不幸って何?」
珍妙な動物でも見るような目で美汪に言われ、必死に首を横に振る穏花。
「い、いやっ、あの、もっとすごいのが、出そう、で」
「心臓でも吐く気?」
「えっ!? 棘病って心臓吐くの!?」
「そんなわけないでしょ、冗談だよ、君は本当にからかい甲斐があるね」
悪戯を楽しむ童のように肩を揺らして笑う美汪は、いつもの無表情からは想像できないほど幼く、無垢だった。
「……み、美汪って……笑うと、なんか……可愛い、ね」
我慢できずにそんな言葉が口をついて出てしまうと、急にぴたりと美汪が固まった。
「……は? 今、僕笑ってた?」
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「……忘れて」
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笑っている自覚がなかった美汪はショックを受けた風に額に手を当て、自分に対しぶつぶつ文句を言っていた。
しかし、穏花の目にはそんな様子も微笑ましく映っていた。
「……相変わらず砂糖菓子みたいに笑ってるけど、君は自分を不幸だとは思わないの?」
「……え?」
「早くに両親を亡くして、不治の病にかかっている。世間一般的に考えれば、十分不幸の定義に当てはまるんじゃないの?」
そんなことを言われても、穏花はピンとこないといった風に人差し指を顎に当て、宙を見上げ眉間に皺を寄せた。
「そう、言われたらそうなのかな? でもあまり考えたことないかも。辛いとか、悲しいなとかはたくさん思ったりするけど」
「じゃあ、君にとっての不幸って何?」
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