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あふれる想い
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泣かないでおこう、と、思っていた。
吸血族を死に追いやった同族である自身が泣くのは間違いだと、泣きたいのは美汪の方ではないか、と。
そう頭ではわかっているはずなのに、感情はそれに比例してくれず、我慢しようとすればするほど込み上げてくる。
やがて抑えきれなくなった悲哀の雫が、穏花の瞳からこぼれ落ちた。
そんな穏花の様子に気づいた美汪は、珍しく動揺したように切れ長の目を見開いていた。
「な、何泣いてるの……」
「……う……ご……ごめんなさいッッ!!」
一度決壊してしまった涙腺はとどまることなく、夜明けを知らない大雨のように回廊の床に降り注いだ。
「なんで君が謝ってるの」
「うぅ……に……人間、代表として!!」
「……ふぅん、一般教養に達していない君に人間代表としての価値があるとでも?」
「思いませんっ!! すみませんっ!!」
「何それ、すごい矛盾してるんだけど…………ふ」
美汪らしい辛辣な切り返しの後に、ほんの少し、耳を澄ましていなければ聞き逃してしまうほどの、空気が漏れるような音がした。
穏花は泣き濡れた瞼を手でこすり、前を向いた。
そしてついにその時が訪れた。
初めて見る、美汪の、笑顔を前にして。
「本当に君は……困った人だね」
目の前で――――
アカが、はじけた――――。
吸血族を死に追いやった同族である自身が泣くのは間違いだと、泣きたいのは美汪の方ではないか、と。
そう頭ではわかっているはずなのに、感情はそれに比例してくれず、我慢しようとすればするほど込み上げてくる。
やがて抑えきれなくなった悲哀の雫が、穏花の瞳からこぼれ落ちた。
そんな穏花の様子に気づいた美汪は、珍しく動揺したように切れ長の目を見開いていた。
「な、何泣いてるの……」
「……う……ご……ごめんなさいッッ!!」
一度決壊してしまった涙腺はとどまることなく、夜明けを知らない大雨のように回廊の床に降り注いだ。
「なんで君が謝ってるの」
「うぅ……に……人間、代表として!!」
「……ふぅん、一般教養に達していない君に人間代表としての価値があるとでも?」
「思いませんっ!! すみませんっ!!」
「何それ、すごい矛盾してるんだけど…………ふ」
美汪らしい辛辣な切り返しの後に、ほんの少し、耳を澄ましていなければ聞き逃してしまうほどの、空気が漏れるような音がした。
穏花は泣き濡れた瞼を手でこすり、前を向いた。
そしてついにその時が訪れた。
初めて見る、美汪の、笑顔を前にして。
「本当に君は……困った人だね」
目の前で――――
アカが、はじけた――――。
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