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あふれる想い

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 穏花はコーエンに言われた通り、部屋を出てすぐ右手に位置する扉をノックした。
 大きさは観音開きの扉の半分ほどだが、薔薇や蔓、羽のような形が彫られており実に豪華で、この城自体が芸術品のようである。

 少し待つと中から「どうぞ」と、入る許しが聞こえたので、穏花は重みある扉を押し開いた。

「失礼しま……わあ……!」

 室内の光景が視界に入るや否や、穏花は言葉の途中で思わず声を上げた。

 広々とした一室は、見渡す限り本棚になっていた。
 一体どんな造りなのか、建物の梁らしきものは見当たらず、すっきりとただ真っ直ぐ白い天井に伸びた本棚たちはずいぶん遠くまで続いており、階数にすれば三階近くの高さではないかと思われた。
 屈折した壁の形に添い本が置かれている様から、この部屋は“回廊”と呼ばれているのだろう。
 長方形の部屋に合わせ四つ曲がり角があり、本棚に取り囲まれた中央にぽつんと置かれたアンティーク調の椅子に、美汪はいた。
 
 美汪は穏花が入って来ると、背もたれに預けていた身体を起こし、目をやった。
 先ほどまでは暗闇で目を瞑り休んでいた美汪だったが、穏花が扉をノックした際、明かりをつけたのだ。
 人間であるコーエンや、混血たちが読書をするための配慮だろうか、この部屋の照明は廊下や先ほどの部屋に比べると白っぽい光で明るさを感じた。

 歴史を感じさせる分厚い書物たちは隙間なく整頓され、巨大な本棚を埋め尽くしていた。
 部屋に入った穏花はとりあえずその景色を一通り堪能してから、美汪を見た。
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