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吸血族の城

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 つぶらな瞳をぱちくりさせる穏花に、コーエンは含み笑いを浮かべると自然な姿勢に戻した。
 穏花は、美汪が自分の血だけを飲んでくれているのは、以前「特段美味しく感じる」と言われたことから、単に味が好きだからだと思った。もしくは慈悲深い彼が、死にたくないとすがるのを哀れに思ったから、だと。 
 ――的外れな推測を立てていた。

「あなた様の病は必ず治癒しましょう。ぼっちゃまが強く願われたことは叶うと、私は信じております。もちろん私も最善を尽くしますので」
「な、なんか申し訳ないです……何もお返しできていないのに」
「……そんなことはないと思いますよ? ああ、いけません、私の口からお伝えするのはここまでにしておきましょう。余計なことを言うなと釘を刺されていましたから、ぼっちゃまに叱られてしまいます」

 そう言ってコーエンはカップに入ったフレイバーティーを飲み干した。

「これからどうされますか? お帰りになられるならお見送りいたしますよ。城を出ればあなたへの王域は解除されるよう、設定されているでしょうから。それとも――ぼっちゃまにもう一度会って行かれますか?」
「あ……会、って、から帰ります」
「かしこまりました。ぼっちゃまはここを出て、すぐ右手の回廊部屋においででしょうから」
「かい、ろう?」
「廊下という意味ではありませんよ。まあ、行かれればわかります。ぼっちゃまは気持ちを落ち着かせたい時や休みたい時は必ずそこに行かれますので」

 その後はおしゃべり好きなコーエンの面白おかしい世間話が続いた。
 先ほどまでの殺伐とした空気は嘘のように穏やかなものに変わり、食欲が回復した穏花は少しずつだが出された品を美味しそうに綺麗にたいらげた。

 手を合わせ「ごちそうさまでした」と挨拶をすると、穏花はコーエンに深々と頭を下げ、部屋を出た。

「……人間には、はっきり言葉で伝えなければわかりませんよ、美汪ぼっちゃま」

 少女の背中を見送った後、コーエンは意味深に口角を上げ、一人呟いていた。
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