薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜

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吸血族の城

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 コーエンはそんな穏花を見て、何か納得したようであった。

「なるほど、あなた様は“よい行い”をされている自覚がないようですね。本当の意味で善意の人だと言えるかもしれません」
「え、えぇと、それはどういう」
「わからずともかまいません。……さあ、準備は整いました。大切なお話をいたしましょう」

 そう言ってコーエンは穏花の隣に置かれた椅子を引くと、少し距離を空けて腰を下ろした。
 穏花は「いただきます」と言うと、バームクーヘンを一口だけ食べた。

「この度は、私の作成した記事をご閲覧いただきありがとうございました」

 そうだ、と穏花は思い出した。
 棘病、そして吸血族について、唯一他のサイトとは違う内容を記していたそれのことを。

「公開する度すぐに政府に削除されてしまいますが、稀にこうして棘病を患った方が私の記事を読み、事実を知るきっかけとなりますので。僅かな導きになれたらと、めげずに続けております。棘病になられた方を知ることで、治療法を確立できたらと研究にも励んでおります」

 コーエンは食卓に置かれたティーカップの持ち手に指を添え、そっと口に運んだ。

「あの……棘病と吸血族はやっぱり、関係があるんですか?」
「関係があるも何も、棘病は吸血族から発生した病ですからね。……いや、その原因を作ったのは人間ではありますが。少し昔話をしましょう」

 穏花はフォークを置き、真剣な話に備え心を落ち着かせるようにアプリコットティーを口に含んだ。
 コーエンはどうすればうまく伝わるか、頭で話を整理する間を作り、再度口を開いた。
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