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吸血族の城

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「僕は少し休む」
「ええ、どうぞごゆるりと」

 そう言うと美汪は踵を返し、手をひらひら振って部屋を出て行った。

「休むって、美汪は大丈夫なんですか?」
「儀式は集中力が必要ですから、少し疲れられたのでしょう。元より吸血族は明るい場所や時間帯は苦手ですから、人間の生活リズムに合わせている今、帰宅すれば暗闇で英気を養われております。何、心配はご無用ですよ、ぼっちゃまはああ見えて体力がおありですから」

 人間にとって日光浴が必要であるように、吸血族の美汪には暗闇が必要であった。そのため城内は一定の暗さを保っているのである。
 
「さあ、どうぞ。存分にお召し上がりください」
「あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……とっても美味しそうなバームクーヘンにザッハトルテですね」
「よくおわかりで」
「甘いもの、大好きなので」

 ふわふわと微笑む穏花に、コーエンも穏やかな笑顔を返しながら二種の洋菓子を皿に取り分けると、先ほどまで寝台として使われていた食卓に置く。
 そしてポットに入れたフレイバーティーを丸いティーカップへと注いでいく。
 鼻をくすぐる甘酸っぱいアプリコットの香りに、穏花は思わずうっとりとした。

「うーん、いい匂いです」
「穏花お嬢様はフレイバーティーがお好きだと伺いましたので」
「お、お嬢様なんて!? ……あれ、それ誰に聞いたんですか?」
「もちろんぼっちゃまに――おや、どうやら覚えておられないようですね」

 穏花は不思議そうに首を傾げた。

 ――私……美汪に紅茶の話なんてしたかな?
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