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吸血族の城

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 美汪が押すと、低い呻き声のような音を立てて扉が開く。
 暗闇の中、広い廊下の左右に点々と滲む暖色のあかり。中世ヨーロッパを思わせるアンティーク調の照明はずっと奥までつづいており、果てが見えなかった。

 慣れない薄暗さに少し警戒するように、身を縮めた穏花が城内に足を踏み入れた時だった。
 突如、風を切る音とともに何かが顔にぶつかりそうになり、穏花は思わず強く目を閉じ姿勢を低くした。

「わわっ!? な、何何っ……!?」

 バサバサと羽ばたくような異音は忙しなく穏花の聴覚を占拠し、小さく尖ったようなものが首から上を激しく攻撃してくる。
 穏花は閉まった扉に背をつけ、両手で頭を庇っていた。

「アベル、ヨハン!」

 少し先に立ち止まり、振り返った美汪が珍しく大きな声を発した。

「僕の客人だ」
 
 美汪の一言だけで奇襲がやみ、恐る恐る目を開いた穏花が空中に見たものは、暗闇に溶け込んでしまいそうな黒い身体と骨張った弓のような羽根を持った小さな生物せいぶつ、二匹だった。
 暗闇にボタンのように丸い、鈍色の紫が三つ浮かび上がっている。穏花がどこかで見覚えがあると感じたそれは、以前美汪を尾行した帰り道、ブナ林でみちると見た不気味な光と同じだった。

 しかし、驚くべきはそこではない。
 穏花の前を飛んでいたコウモリは床に留まったかと思うと、みるみるうちに骨格が変形し、十歳前後の少年の姿になったのである。
 襟のあるシャツにシンプルな長ズボンを履いた二人は、穏花の胸辺りの背丈に、エキゾチックな瑠璃色の瞳、金色の短い巻毛に、真っ白な肌をしていた。
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