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吸血族の城

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 パチン、と小気味よい音とともに、たった一息で景色が変わる。
 まさしく瞬きをした刹那、次に二人が立っていたのはあのブナ林――穏花が初めて美汪に血を捧げた場所であった。

 穏花は瞳と口をあんぐり開けて、信じ難い現実を確かめようと茂った木々を見回した。

「――す……すごいっ! 美汪って魔法使い!?」
「期待を裏切らない反応どうも」

 鼻息荒く、目を輝かせながら言う穏花に、美汪はすっかり緊張感を解されてしまう。

「吸血族の人たちって、みんな美汪みたいなことができるの?」
「そんなわけないでしょ。……だとしたら君たちのような人間に滅ぼされることもなかっただろうね」
「えっ? 今なんて言ったの?」

 美汪の声が途中から小さく、聞いて取れなかった穏花は疑問符を投げかけたが、彼は何も言わずに歩き始めてしまった。

 紅と黄の色彩が織りなす絨毯を、静かに踏みしめながら進む美汪。
 どこか儚い影を負ったような、哀愁を感じさせる美汪の背中を、穏花は見失わないように追いかけた。

 穏花の髪色に似た薄茶色の木々でできた階段を抜け、すっかり秋色に染まったブナ原生林を観賞しながら歩いていた穏花は、ふとあるものに目を奪われ、その場に立ち止まった。
 かと思うと、高い声を上げながらあっという間に美汪の側から駆け離れてしまう。

「わあっ、すごい、綺麗……!」

 穏花が急ぎ着いた場所は、小規模だが見る人々の心を魅了する神秘性を持った青池であった。
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