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秘密

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「……引くでしょ? 気持ち悪いわよね」
「……なんつうか、誰かを好きになるのは自由だしよ、他人がどうこう言うことじゃねえと思うぜ」

 半ば自暴自棄になって白状したみちるだったが、圭太の真摯な対応を見て徐々に落ち着きを取り戻していく。
 いつも悪ふざけばかりの圭太が、まさかこのように大人びた反応を示すとはと驚いたのだ。

「別に肉体的に穏花を自分のものにしたいとか、そういうんじゃないわよ。ただ……あの子には幸せになってほしいと思っているだけ」
「そっか」
「そっか、じゃないわよ。圭太、あなた穏花のことが好きなんじゃないの?」
「――は? いきなり何言ってるんだよ」

 みちるは右手の甲で浮かんでいた涙を取り払うと、圭太に強い視線を向けた。

「だとしたら、しっかりしてよね。黒川君に取られちゃうわよ」
「なんだ、俺が相手なら応援してくれるってか?」
「圭太の方が人畜無害そうで穏花の相手にはいいかなと思っただけよ」
「あ、そう」
「黒川君は何を考えてるかわからないもの。穏花を僕にしか思っていないように見えるわ、あの人でなし……」

 苦虫を潰したような面持ちで親指の爪を噛むみちる。
 穏花が棘病の緩和をできても、みちるが素直に喜べなかった理由はこれだ。
 美汪は穏花に乱暴な言葉を使うでもなく、力づくで連れ去るわけでもない。
 しかし、無言の圧力と顎で使うあの仕草はとても穏花を大事に扱っているようには見えなかったからだ。
 みちるは目から得る情報だけで物事を判断していた。
 人でなしに見える美汪が暴君だという証拠がなければ、優しく見える圭太が無害だという証拠もなかったというのに…………。
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