薔薇の耽血（バラのたんけつ）

秘密

20

　少し強がって笑顔を作るだけでも息苦しいのに、自分本来の種族を隠しながら生きることはどれほど辛いのだろうかと思った穏花は美汪に「しんどくない？」と聞いたことがある。
　それに対し美汪は絶対零度の表情を崩さずして「そんな風に思うことは僕を生み出した父と母への冒涜だ」と言って退けた。

　決してぶれない気高い美汪に、穏花はもう何度吸血されただろう。
　美汪からの誘いはいつも唐突だったが、初めての時のようにひどい痛みを与えられることはなかった。
　美汪は規定を守るかのように、一日一度、決まった量だけ穏花の血を摂取した。
　そのおかげで穏花は一気に血液を失い、貧血で倒れるようなこともなかった。

　誰もいない教室で、またあの視聴覚室で、保健室や屋上、時には体育館の裏や倉庫内などもあった。
　人目を忍び毎日繰り返されるその行為は、まるで恋人たちの秘めた儀式のようであった。