薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜

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秘密

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「……そんな、驚くほどの匂いなの?」

 美汪は少し訝しげに質問をした。どうやら彼自身も気にはなるようだ。

「うん、すごく、とってもいい香り。薔薇みたいな、甘くて優雅な感じの」
「……ふぅん」

 気のない返事をしながら、美汪は再び穏花に覆い被さる。
 また右の首筋に口を近づけてくる美汪に、穏花は冷や汗をかきながら暴れようとした。
 が、穏花の両腕を掴んだ美汪の手がそれを許さない。
 このしなやかな身体のどこにそんな力が隠れているのかと思うほど、強く壁に押さえ込まれて動けなくなる。

「も、もう血は……」
「黙って」

 てっきりまた吸血されるのかと怯えた穏花だったが、美汪にその気はなかった。
 美汪は高い背を折り曲げて、穏花の首筋に顔を埋めるようにしながら、先ほど牙を突き立てた傷痕に舌を這わせていた。

 穏花は困惑を極めた。
 血を吸うためではない、この行為は、一体――?

「今は、匂いはするの?」
「……す、少し、甘い、香りが」
「そう、なら確かに僕の匂いだね」

 吸血する際とは比べ物にならない淡いものだったが、やはり美汪自身から、花の香りが生まれていた。
 美汪は小さな穴二つを舐め、時折咬むふりをして身体をびくつかせる穏花の反応を愉《たの》しんだ。

「怖がるなよ。興奮する」
「……や、めて、美汪……」
「やめない」

 美汪の唇は傷痕を溶かすかのように綺麗に治した。
 しかしその代わりに、ひどく吸われた痕が青や紫の痣となり残る。
 まるで所有の証のように――。
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