34 / 142
秘密
14
しおりを挟む
「……で、あれからどうなの? 棘病は」
「どう、って?」
「進行具合はどうなのって意味だよ。本当に君は頭が足りないね」
「あ、そうだよね! ごめんね」
「……頭が足りないとは言ったけど、それを悪いとは一言も言ってないよね? 勝手な被害妄想はよしなよ、謝るとこでもない」
「う? うん」
美汪の言い回しは単純な穏花にとってはわかり辛い。
とりあえず叱られたわけではなさそうだと胸を撫で下ろした穏花は、棘病について話すことにした。
「今日は、さっき小さくて白い花弁を一枚、吐いただけ。昨日は朝昼夕方と吐いたんだけど……美汪に血を吸ってもらってから、ずいぶんマシになったみたい」
「……そう。やはり吸血族が血を吸うと、棘病の進行を食い止めることができるのは確かか」
美汪はしなやかに骨張った人差し指を唇に当て、思案するように独り言を呟いていた。
「美汪と……吸血族? と、棘病は、何か関係があるの?」
「……さあね」
美汪は冷ややかに受け流すと、腕を下ろし穏花に軽く顎を上に動かして見せた。
「そんなに離れていたら血を吸えないんだけど」
顎で誘われ、穏花はようやく出入り口付近から離れると、美汪の側まで歩いた。
昨日は考える隙すら与えられず、訳もわからぬまま吸血され気を失い、終わったが――今は静かな時が流れている。
椅子に座ったままの美汪を立っている穏花がやや見下ろす形になると、当然美汪は穏花を見上げるようになるわけだが。
その透明感の強い黒の瞳は、まるで宝石のように神秘的だった。
「どう、って?」
「進行具合はどうなのって意味だよ。本当に君は頭が足りないね」
「あ、そうだよね! ごめんね」
「……頭が足りないとは言ったけど、それを悪いとは一言も言ってないよね? 勝手な被害妄想はよしなよ、謝るとこでもない」
「う? うん」
美汪の言い回しは単純な穏花にとってはわかり辛い。
とりあえず叱られたわけではなさそうだと胸を撫で下ろした穏花は、棘病について話すことにした。
「今日は、さっき小さくて白い花弁を一枚、吐いただけ。昨日は朝昼夕方と吐いたんだけど……美汪に血を吸ってもらってから、ずいぶんマシになったみたい」
「……そう。やはり吸血族が血を吸うと、棘病の進行を食い止めることができるのは確かか」
美汪はしなやかに骨張った人差し指を唇に当て、思案するように独り言を呟いていた。
「美汪と……吸血族? と、棘病は、何か関係があるの?」
「……さあね」
美汪は冷ややかに受け流すと、腕を下ろし穏花に軽く顎を上に動かして見せた。
「そんなに離れていたら血を吸えないんだけど」
顎で誘われ、穏花はようやく出入り口付近から離れると、美汪の側まで歩いた。
昨日は考える隙すら与えられず、訳もわからぬまま吸血され気を失い、終わったが――今は静かな時が流れている。
椅子に座ったままの美汪を立っている穏花がやや見下ろす形になると、当然美汪は穏花を見上げるようになるわけだが。
その透明感の強い黒の瞳は、まるで宝石のように神秘的だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
お父さんの相続人
五嶋樒榴
キャラ文芸
司法書士事務所を舞台に、一つの相続から家族の絆を垣間見る摩訶不思議な物語。
人にはいつか訪れる死。
その日が来てしまった家族に、過去の悲しい出来事に終止符を打たなければならない日が来てしまった。
受け入れられない母と、そんな母を心配する娘。
そしていつも傍に寄り添う猫。
猫に対する故人の思いと、家族の美しい思い出。
猫は本当に、息子の生まれ変わりなのだろうか。
でも、この猫こそが、とんでもない猫だった。
one day only ~1日だけのカフェで
yolu
キャラ文芸
終電前に帰れたと喜んだ由奈だが、仕事に忙殺される毎日に嫌気がさしていた。
ついもらした「死んじゃおっか」。
次の快速まで、残り1時間。
それまでの命だと割り切った由奈は、家とは逆のコンビニに向かっていく。
しかし、夜中にも関わらず、洋館カフェ「one day only」が現れて──
不思議な『1日だけのカフェ』開店です。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2024/12/3:『こんびに』の章を追加。2024/12/10の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/2:『しゃんぷー』の章を追加。2024/12/9の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/1:『いき』の章を追加。2024/12/8の朝8時頃より公開開始予定。
2024/11/30:『めーる』の章を追加。2024/12/7の朝8時頃より公開開始予定。
2024/11/29:『ふていけい』の章を追加。2024/12/6の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/28:『へびのたまご』の章を追加。2024/12/5の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/27:『こい』の章を追加。2024/12/4の朝4時頃より公開開始予定。
【完結】赤き花の呪いと奇跡
私雨
ライト文芸
その畑には、彼岸花が果てしなく続いていた。どこまでも、どこまでも。
彼岸花は不吉で触ってはいけない、と誰もが信じていた。
しかし、危険を顧みずにその畑を居場所にしている二人の女子高生がいる。
彼女たちは出会い、呪われ、抗おうとする。それでも、何が何でも奇跡を起こすまで決して諦めない。
呪いで始まり、奇跡で終わる物語がこれから繰り広げられる――。
絶世の美女の侍女になりました。
秋月一花
キャラ文芸
十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。
旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。
山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。
女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。
しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。
ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。
後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。
祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
余命三ヶ月、君に一生分の恋をした
望月くらげ
青春
感情を失う病気、心失病にかかった蒼志は残り三ヶ月とも言われる余命をただ過ぎ去るままに生きていた。
定期検診で病院に行った際、祖母の見舞いに来ていたのだというクラスメイトの杏珠に出会う。
杏珠の祖母もまた病気で余命三ヶ月と診断されていた。
「どちらが先に死ぬかな」
そう口にした蒼志に杏珠は「生きたいと思っている祖母と諦めているあなたを同列に語らないでと怒ると蒼志に言った。
「三ヶ月かけて生きたいと思わせてあげる」と。
けれど、杏珠には蒼志の知らない秘密があって――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる