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秘密

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 すると今度は、周りから「いつも能天気でいいね」「悩みがなさそうで羨ましい」などと言われるようになった。
 両親を事故で亡くした時ですら、弱々しい笑顔を作っていた穏花に、そんな心ない言葉を投げかけたクラスメイトもいた。
 目に見えているものだけに囚われている者に、真実を知ることは難しいというのに、そんな簡単なことを理解していない人間は悲しいかな、多く存在する。

「面白くもないのに笑う必要はない」
「……でも」
「君が笑わなければ寄り付かない人間なんて、オトモダチでもなんでもないでしょ。ありのままを受け入れられない相手なんて、不要だよ。本当、君たち人間は群れるのが好きな上、くだらない形にこだわるよね。自分の評価を他人に任せるなんて、理解に苦しむよ」

 美汪は右肘で机に頬杖をつきながら述べた。
 確かに、その通りだ。
 しかし、一人は辛い。例え深いところでわかり合えない浅い関係でも、友人、仲間と呼べる人物が何人かいれば、人は安心する生き物なのである。
 だが本心では、皆そんな仮初の間柄ではなく、たった一人でも、命をかけても惜しくないと思える誰かに出会えるのを待ち侘びている、矛盾を抱えた生き物なのだ。

 先ほどの持論は、美汪が言ったからこそ説得力があった。
 彼は確かに、誰とも群れない。
 穏花に吸血族だと知られても、それを口外されることに怯える素振りすらなかった。

「美汪は、いつも一人でも堂々としてるもんね」
「当たり前だよ、自分の価値を決められるのは自分だけだ」

 自分にはない、迷いのない意志の強い目。穏花はまるで引き込まれるように瞬きすらできなかった。
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