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秘密

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 放課後になると、穏花は窓側の席に座る圭太の元へ行った。

「圭太、ごめん……今日、カフェに行くのやめておくね」
「え、どうしたんだ? 楽しみにしてただろ?」
「うん、でも……ちょっと体調が、あまりよくなくて」
「大丈夫かぁ? 保健室まで送ってくか?」

 心配そうに顔を覗き込む、圭太の大きな瞳に映る自身の情けない表情を見て、穏花は悲しくなった。
 突然キャンセルをしたにも関わらず気遣ってくれる優しい圭太。気になる相手と一時の安らぎを過ごすことさえ叶わない、それが現実だった。

「ううん、大丈夫、一人で行けるから」
「本当にかぁ?」
「しつこいわよ、圭太、女子には男子に言い辛い体調不良だってあるんだから」

 穏花と圭太が話していると、掃除当番のみちるがほうきを手にしたまま話しかけてきた。
 みちるは圭太とは違う、別の理由で穏花を心配していた。棘病と、美汪のことだ。

「……穏花、本当に大丈夫、なの?」

 みちるはそれらの意味合いを込め、真剣な眼差しで穏花を見た。
 それでもやはり、穏花は誤魔化すように笑顔を作るだけだった。

「みっちゃんもありがとう。でも平気だから! じゃあ、また明日ね!」

 穏花はそう言って明るく振る舞うと、足早に教室を後にした。

「ちぇー、なんだあ。じゃあみちる、一緒にカフェ行く? 女子ウケしそうな可愛いアートパンケーキやラテがあるらしいぜ」
「私がそんなチャラチャラしたものに興味があると思う?」
「ですよねー」
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