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棘病

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 背筋が凍る。
 決して乱暴な言葉で貶されているわけでも、力でねじ伏せられているわけでもない。
 ――にも関わらず、穏花は四肢を微動だにできなかった。
 尋常ではない威圧は彼女に呼吸をすることすら忘れさせ、視線を外すことすら許さなかった。

 穏花は腕にみちるを抱いたまま、やがて時の経過とともに徐々に身体を震わせた。
 依然何も口にできないまま、ただ自身を見下ろす美汪に視界を支配されつつ、小さな脳で必死に数少ない弁明の選択をしていた。

「あ……、あ、の……」

 やっとのことで声を漏らすことができた。
 蚊の鳴くような声であった。

 穏花は、やはり美汪は他の人とは何かが違うと感じた。
 先ほど、突如として襲いかかった不安は、美汪が自分たちを見ていたからなのだろうと推測できた。

 美汪の言葉から、みちると尾行していたことを悟られているのは明確だったため、穏花はとにかくその件を謝罪しなくてはならないという答えに辿り着いた。

「ご、ごめん、な、さい……、ちょっと、事情があって……、黒川君に、嫌な思いをさせるつもりじゃなかったの」

 美汪は何も返さず、相変わらず冷えた目で穏花を見下すだけだった。

 一体、これはなんなのか。
 強大な重力がかかったかのような苦しさ。
 穏花は怖がりではあるが、同い年の男子生徒、たかが一人相手に睨まれたところでここまで怯える必要はない。
 これは古来より人間の遺伝子に刻まれた、危険への警告だった。
 『逃げろ』
 理屈ではなく、本能がそう叫んでいた。
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