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棘病

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 真後ろには、ただ自然が広がっているだけで、誰もいない。
 ――つまり、そこに立っているはずの、みちるの姿がなかったのだ。

 穏花はゆっくりと視線を地へと落とす。
 すると、落葉の上にうつ伏せに倒れているみちるを見つける。
 先ほどの何かが落ちたような音は、みちるが地面に倒れた音であった。

「み……みっちゃんっ……!?」

 穏花は覆い被さるようにみちるに抱きつき、その身体を起こそうと必死に揺さぶった。
 しかしみちるは目と口を閉じたまま、一向に反応を示そうとしない。

「みっちゃん、みっちゃん! どうしたの、何があったの!? 起きて! 起きてよお!! みっちゃ――」

 穏花の騒ぎ立てる声は、あるものによって制された。
 それは暴力などではない。
 刹那に様変わりする空気。
 大地の彩がたちまち無色になり、みずみずしい匂いは凍てついた氷と化し砕け散り失せた。

 穏花は親友を腕に抱いたまま、微かに顔だけを動かした。
 次第に視界に映り込んだのは、背後に立ち、自身を見下ろす、彼の姿だった。


「よくもあんなずさんな尾行で、この僕を騙せると思ったね」


 侮蔑と卑下のすべてを込めた冷徹な瞳が、未だ声すら漏らせない穏花を貫いた――。
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