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棘病
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穏花は灰色のブレザーを羽織ると重い足取りでバスに乗り、十数分ほど流れる景色を眺めた後、高校一年一組の扉を開いた。
雪国の地方であるため、生徒数は一組十五人、これが二クラスある小規模な高等学校だった。
教壇前に位置する机の椅子に座っていた女生徒は、穏花が教室に入って来たことに気づくと立ち上がって手を振った。
「おはよう、穏花」
「おはよう、みっちゃん」
谷崎みちるは馬の尻尾のように艶のある真っ直ぐな黒髪を高い位置で一つに結んでいた。涼しげな目鼻立ちが印象的な東北美人である。
二人の仲は幼稚園からで、穏花が両親を事故で失った時も懸命に支えてくれたみちるは、親友を通り越し、今や肉親に近いような関係であった。
そのため、穏花は今朝の出来事を話すのは、みちるしかいないと思ったのだ。
他の生徒たちが楽しげな会話を弾ませる中、穏花は意を決してみちるの耳元に口を寄せた。
「あ、あのね、みっちゃん、少し話したいことがあるの……後で、いい?」
「え、なぁに? 恋の相談ならいつでも聞いてるでしょ?」
「ちっ、違うよ! 今回のはそうじゃなくて! ……もっと、大事な相談、なの……、他の人には言えない、から」
消え入りそうに声を落として言う穏花に、ただならぬものを感じたみちるは真剣な面持ちをし小さく頷いた。
「わかったわ、私ならいつでも大丈夫よ」
「あ、ありがとう、みっちゃ――痛たっ!!」
突然強く肩を叩かれて、思わず穏花は声を上げた。
雪国の地方であるため、生徒数は一組十五人、これが二クラスある小規模な高等学校だった。
教壇前に位置する机の椅子に座っていた女生徒は、穏花が教室に入って来たことに気づくと立ち上がって手を振った。
「おはよう、穏花」
「おはよう、みっちゃん」
谷崎みちるは馬の尻尾のように艶のある真っ直ぐな黒髪を高い位置で一つに結んでいた。涼しげな目鼻立ちが印象的な東北美人である。
二人の仲は幼稚園からで、穏花が両親を事故で失った時も懸命に支えてくれたみちるは、親友を通り越し、今や肉親に近いような関係であった。
そのため、穏花は今朝の出来事を話すのは、みちるしかいないと思ったのだ。
他の生徒たちが楽しげな会話を弾ませる中、穏花は意を決してみちるの耳元に口を寄せた。
「あ、あのね、みっちゃん、少し話したいことがあるの……後で、いい?」
「え、なぁに? 恋の相談ならいつでも聞いてるでしょ?」
「ちっ、違うよ! 今回のはそうじゃなくて! ……もっと、大事な相談、なの……、他の人には言えない、から」
消え入りそうに声を落として言う穏花に、ただならぬものを感じたみちるは真剣な面持ちをし小さく頷いた。
「わかったわ、私ならいつでも大丈夫よ」
「あ、ありがとう、みっちゃ――痛たっ!!」
突然強く肩を叩かれて、思わず穏花は声を上げた。
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