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棘病

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 ある朝、萌木もえぎ穏花のどかは薔薇を吐いた――。
 
 金木犀香る初秋、十月を過ぎた頃、枕元に置いた目覚まし時計が予定時刻を指す前のことだった。

 突如喉を詰めるような息苦しさに見舞われた穏花は、強制的に夢の世界から連れ戻され、咽せながら身体を起こした。

 胸を押さえ、激しい咳を繰り返し、ようやく喉元のつっかえが取れたと思ったと同時に口内に違和感を覚える。
 痰ではないことはすぐにわかった。
 舌触りから平らで、薄い何かだと判断できたからだ。
 
 穏花はそれを右掌に吐き出した。
 ――そして、そこに現れた物体を前にすると、自身の目を疑った。

「……何、これ……?」

 穏花がそう呟いたのも無理はない。
 彼女の体内から出現したそれは、白い薔薇のような花弁はなびらだったのだから。

 自失していた穏花は、しばし硬直した後であることが脳裏に浮かんだ。

 それはずいぶん幼い頃……小学生低学年だっただろうか、今より十年近く前に、テレビで稀な病を特集していた番組のことを思い出したのだ。

 花を吐く病の話。
 そんなものがこの世にあるなんて信じられないと思い、子供だった当時でも強く印象に残っていたのだ。

 穏花は急ぎベッド横にある棚に置いたスマートフォンを充電器から外すと、インターネットに接続し“花を吐く 病気”と打ち込み検索ボタンを押した。
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