蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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試練

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「は、はいっ……! 重々、承知しております! 天獄様のおっしゃることは、ごもっともだと思います……!」
『うむ……。東城いろり、最後の質問である』
「は、はい……!」
『主にはいずれ蛇珀のいんが現れよう。主が万が一、蛇珀以外の男に心奪われ、不義を働こうものなら、その愛の印はたちまち呪いの印と化し、主を内から焼き尽くす。また、蛇珀が他の女に目移りし、主から心が離れた場合も同様』
「あの……それは、蛇珀様には、何も罰はないのでしょうか?」
『この件については蛇珀に対する罰は皆無である。不平等と思うやもしれぬが……』
「いえ」

 神と人の計り知れない身分差など、いろりはとっくに受け止めている。
 いろりは蛇珀に害が及ばないか、それだけを案じていた。
 そのため、天獄の返答はいろりにとって、まさに天国から舞い降りた御仏の加護のように聞こえた。
 いろりは天獄に手を合わせた。その目尻には涙が浮かび、笑顔が滲んでいた。

「ありがとうございます、ありがとうございます、私から申し上げることは何もございません。本当に……ありがとうございます、天獄様……!」
『……合格である。蛇珀はよき者を選んだ』

 その台詞が終わるや否や、天獄から目が眩むほどの光が発せられた。
 いろりは思わず目を瞑り、手で光を遮った。

『規格外故、扱いにくいこともあるやもしれぬが、まごう事なき優秀な神である。大事にしてやってくれ』

 いろりがゆっくりと瞼を持ち上げた時、温かい光を感じた。
 視界を埋める白銀色の明かりに誘われるようにその場に立ち上がると、いろりの目の前に、大粒の涙型の翡翠色をした雫が現れる。

「蛇珀である。拾ってやってくれ」

 狐雲の呼びかけにいろりは目を見張りながら、大切に水を汲むように、両掌を合わせ翡翠色の一滴いってきに優しく添えた。
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