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試練
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場面は急に暗く淀んだ空間へと切り替わる。
彼女が試練に屈した瞬間、拳豪の苦行は無意味となり、竜の寝床から仙界へと強制送還された。
百恋、拳豪、拳豪の想い人の三人が、天獄の前に集められた。
「なぜ……なぜだっ! 後少しで竜の先端まで辿り着けるところだったのに! なぜ俺を裏切った、美藤!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、拳豪様……! でも、あなた様は、いつ帰られるかわからないと、死んでも逢えないかもしれないと言われました! ……寂しかったのです、そこで……百恋様が優しくしてくださって……あたしは人間です、神様のように強くありません……あなた様の記憶も日毎に薄れて……僅かな思い出だけで生きていけるほど女は夢見がちではありませんわ!」
美藤の話を聞いた拳豪は驚愕した顔つきで百恋を見た。
「百恋……貴様、親友だと思っていたのに……! よくも……よくも美藤を奪い取ってくれたな! 後生、許さぬ――!!」
拳豪は修羅となり、赤黒い光を噴出させながら百恋に襲いかかる。
百恋は避けようとしなかった。どうなってもかまわないと思っていた。
しかし、拳豪の太い腕が百恋に触れる直前、その巨体は一粒の赤胴色の雫となり失せた。
それと同時に、美藤は肉体を消され、魂だけの姿となり地獄――竜の寝床行きとなった。
『百恋、見事な誘いであった。主には何か、褒美を授けねばな』
「……いえ、けっこうです」
『何……? 誠によいのだな』
「はい、何も、いりません……」
天獄の前に跪いた百恋の目尻に、光るものが浮かんだ。
だが、百恋は天を仰ぎ、それを無きものとした。神の涙は司る域を荒らす。よって重罪とされているためだった。
彼女が試練に屈した瞬間、拳豪の苦行は無意味となり、竜の寝床から仙界へと強制送還された。
百恋、拳豪、拳豪の想い人の三人が、天獄の前に集められた。
「なぜ……なぜだっ! 後少しで竜の先端まで辿り着けるところだったのに! なぜ俺を裏切った、美藤!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、拳豪様……! でも、あなた様は、いつ帰られるかわからないと、死んでも逢えないかもしれないと言われました! ……寂しかったのです、そこで……百恋様が優しくしてくださって……あたしは人間です、神様のように強くありません……あなた様の記憶も日毎に薄れて……僅かな思い出だけで生きていけるほど女は夢見がちではありませんわ!」
美藤の話を聞いた拳豪は驚愕した顔つきで百恋を見た。
「百恋……貴様、親友だと思っていたのに……! よくも……よくも美藤を奪い取ってくれたな! 後生、許さぬ――!!」
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百恋は避けようとしなかった。どうなってもかまわないと思っていた。
しかし、拳豪の太い腕が百恋に触れる直前、その巨体は一粒の赤胴色の雫となり失せた。
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