蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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試練

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 百恋の夜這いから一夜明け、茹だるような暑さの八月が幕を開けた。

 いろりは朝早くからセーラー服に袖を通し、夏休みの課題をするため高校の図書館に足を運んでいた。
 そしてその帰り、鳥居連なる狐神社に向かう。蛇珀が苦行に出てから、いろりは毎日欠かさず参拝をしているのだ。

 ――どうか、今日も蛇珀様が無事でありますように……。

 賽銭を入れ、合掌し、目を閉じながらそう祈りを込めていた時だった。

「毎日ご苦労であるな」

 背後から聞こえた声に振り返ると、そこには豊かな尻尾をした琥珀色の狐がいた。

 いろりはたたずを呑んだ。
 鷹海、百恋に続き、今度は狐雲。
 いつか蛇珀の訃報を知らされるのではないかと、気が気でなかった。

「そなたを迎えに来た。案ずることはない。よい知らせである」
「……え……?」

 いろりは思わず気の抜けたのような声を、吐息とともに漏らした。

「あまりに早い朗報に驚いておるのはそなただけではない。さあ、参るぞ」
「は、は、い……!」

 よい知らせ、とは一体なんなのか?
 まさか……と、いろりは期待に胸膨らませるが口に出せば夢になってしまいそうで、そっと胸に手をやると深呼吸をして心を落ち着かせるよう努めた。
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