蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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ありし日の恋物語

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 蛇珀はぐらぐらと煮えたぎる釜茹での道を飛び越えたところで、鼻をくすぐるいい匂いに足を緩めた。

「なんだ? すげえいい匂いが……」

 言い終わる前に、蛇珀の目の前が急に明るくなり、豪華な料理が現れる。

 それらは、赤い竜の模様が彫られた白く広い机の上に隙間がないほど並べられている。
 和洋折衷、高級食材も多数揃っていたが、蛇珀の食欲をそそるのは極めて庶民的なものだった。
 なぜなら蛇珀の舌はいろりが買ってくれたものや、いろりの家で出てくるものでできていたからだ。
 特にその中でも蛇珀が気に入っていたのは……。

「う、ウインナー!!」

 蛇珀はすっかり燻製肉にハマっていた。
 蛇は本来肉食のため仕方がないことである。
 好物の登場に思わず目を輝かせた蛇珀であったが、さすがに明らかにおかしいと気がつくと、わなわなと肩を震わせ机を食事もろともひっくり返した。

「――ってどう考えても罠だろうが! どれだけ俺のこと頭悪りいと思ってやがるんだ天獄様はよォ!!」

 蛇珀に拒否された食事たちは嘘のように消え失せた。

 バカにしやがって、と呟きながら先を進もうとする蛇珀の前に、薄明るい雲が現れる。

「……今度はなんだ?」

 そこから姿を見せたのは、ずらり横並びになった絶世の美女たちであった。
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