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ありし日の恋物語
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瞬く間に移動したその先は、連なる紅い鳥居を背景に建つ社の御前であった。
そこに着くや否や、華乃は狐雲を見つめながら微かに身を震わせ、次第に涙を滲ませた。
灰色の砂利に片膝をつける狐雲の腕に抱かれたまま、華乃はしゃくり上げながら懸命に瞼を擦っていた。
「……私は、いらぬことをしたか」
「……ち、違います、違うのです! あなた様が悪いのではありませぬ。すべてはわたくしのせいでございます……!」
「華乃……?」
「わたくしは、口ではあのような……お家のために、この身を捧げようと告げましたが、本当は……本当は、嫌でならなかったのです……! あなた様に出逢う前なら耐えられたのです、身も心も凍らせてしまえばよいと……ですがっ……狐雲様に出逢ってから、あなた様のことばかり……っ、あなた様以外の殿方に触れられると考えただけで怖気《おぞけ》が止まらず、いつかわたくしを攫ってくだらないかと願ってしまったのです……!」
涙とともに堰を切ったように溢れ出る華乃の想い。
「申し訳ごまいませぬ、申し訳ございませぬ……! 一介の人間が神様であるあなた様をお慕いするなど、あってはならぬこと……どうか、どうかこの身の程知らずなわたくしに罰を与えてください、狐雲さ――……」
自身を責め立てる華乃の口を封じるように、狐雲は強引にその顎を引き寄せ、唇を重ねていた。
「そのようなこと私にできるはずがない! 神であることを忘れ、そなたの虜になっておるこの男に……!」
声を荒げ、熱を込めた目で告げる狐雲。
あまりの驚きと歓喜の衝撃で、華乃はしばし言葉を失った。
そこに着くや否や、華乃は狐雲を見つめながら微かに身を震わせ、次第に涙を滲ませた。
灰色の砂利に片膝をつける狐雲の腕に抱かれたまま、華乃はしゃくり上げながら懸命に瞼を擦っていた。
「……私は、いらぬことをしたか」
「……ち、違います、違うのです! あなた様が悪いのではありませぬ。すべてはわたくしのせいでございます……!」
「華乃……?」
「わたくしは、口ではあのような……お家のために、この身を捧げようと告げましたが、本当は……本当は、嫌でならなかったのです……! あなた様に出逢う前なら耐えられたのです、身も心も凍らせてしまえばよいと……ですがっ……狐雲様に出逢ってから、あなた様のことばかり……っ、あなた様以外の殿方に触れられると考えただけで怖気《おぞけ》が止まらず、いつかわたくしを攫ってくだらないかと願ってしまったのです……!」
涙とともに堰を切ったように溢れ出る華乃の想い。
「申し訳ごまいませぬ、申し訳ございませぬ……! 一介の人間が神様であるあなた様をお慕いするなど、あってはならぬこと……どうか、どうかこの身の程知らずなわたくしに罰を与えてください、狐雲さ――……」
自身を責め立てる華乃の口を封じるように、狐雲は強引にその顎を引き寄せ、唇を重ねていた。
「そのようなこと私にできるはずがない! 神であることを忘れ、そなたの虜になっておるこの男に……!」
声を荒げ、熱を込めた目で告げる狐雲。
あまりの驚きと歓喜の衝撃で、華乃はしばし言葉を失った。
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