蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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ありし日の恋物語

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「たす、け……こう、う、さま……」

 神眼を通して伝わる華乃の声、悲痛な姿。

 ―――――狐雲は理性を飛ばした。

 穏やかだった空はたちまち世界の終わりのようにどす黒い雲雲に覆われ、滝のような雨と稲光りを降らせた。
 
「なんだ、突然……嵐か?」
「――ひっ……!?」

 美しい姫君である華乃をなぶろうとしていた三人の男たちは、突如、何もなかったはずの空間に現れた狐雲に言葉を失った。

 狐雲の端麗な顔は猛悪な夜叉のように変貌を遂げ、髪は逆立ち、高圧な神力を放っていた。
 狐雲の黄金色の目に睨みつけられ、愚弄者たちは立ちどころに気を失い倒れていった。

「こう、うん、さ、ま……」

 国を破滅させかねない狐雲の憤怒は、華乃の無事を確かめるとかろうじて理性に傾いた。
 この時華乃が純潔を奪われていたなら、日本は滅びていたかもしれない。
 
 狐雲は幾分か自我を取り戻したものの、落ち着いてなどいられず急ぎ華乃を胸に抱きかかえた。

「こ、狐雲様! お待ちください! わたくしだけ逃げるわけにはいきませぬ! いけません、狐雲様……!」

 華乃が呼び止めるのも聞かず、狐雲は彼女を抱いたまま、惨状になりゆく現場から姿を消した。
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