蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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ありし日の恋物語

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 その日も狐雲は約束した時刻に華乃の部屋に空間移動した。

 しかし、そこに華乃の姿はなかった。

 いつもなら少し落ち着かない様子で湯上がりの白い浴衣に身を包み、蒸気させた頬で狐雲を見つけると柔らかく微笑むのだが。

 狐雲は嫌な予感がした。
 部屋の明かりは消え、夜中であるにも関わらず、なぜか襖越しに見える外の景色が煌々としていた。
 紅に近い、橙色に揺らめく光。焦げつくような異臭に、狐雲は勢いよく襖を開け放った。
 
 ――するとそこは、火の海と化していた。

 庭園の見事な枯山水も、植え込みや木々もすべて飲み込まれ、焼け落ちていく。
 絶句し辺りを必死に見回せば、木や家屋に刺された矢の切れ端が認められる。
 華乃のお家の敵集が、夜闇に紛れ火の矢を射り、奇襲をかけたのだと狐雲は気がついた。

「――華乃、華乃!!!」

 狐雲は我を忘れ、必死に華乃の名を呼んだ。
 この時の狐雲は神ではなく、ただの恋する一人の男であった。

 狐雲は神眼を使い、華乃の姿を探す。
 琥珀色の瞳が激しく色を変え、愛しい者の居場所を捕らえる。
 そこには、薄暗い離れに押し込められ、数名の男により浴衣を乱されている華乃がいた。
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