蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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「……蛇珀様が、私のために……」
「おい、鷹海、それは言わねえ約束だろ」

 不意に、どこからか声がした。

 その場にいた三人すべてがハッと顔を上げる。
 数時間前まですぐ耳元にあったはずなのに、懐かしく感じさせるその声。
 いろりは必死に辺りに視線を巡らせた。

「水鏡である。あちらだ」

 狐雲に教えられ、いろりは呼吸を乱し走り着いた。
 以前蛇珀と訪れた、薄蒼く透き通る円形の泉。
 悲しみを讃えるような美しい水面には、少女の最愛の者が映っていた。

「竜の寝床から外に連絡などできるのか……」
「例にないことである」

 狐雲と鷹海は遠巻きにいろりの後ろ姿を眺めていた。

 ――蛇珀、そなたはやはり並の神ではないな。否応なしにも期待してしまうではないか。

「蛇珀様っ……!!」

 いろりは水際に縋りつくように胸をつけ、蛇珀が映る水面を覗き込む。

 その立ち姿は以前と変わらぬ端正なものであったが、若草色の狩衣が奪われたことで白一色の和装になっていた。死装束に似たその格好に、いろりの肝が冷えた。
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