蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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「……蛇珀様の、お好きになさってください」

 蛇珀の熱を帯びる視線にいろりも耐えきれなくなり、無意識に誘う言葉を零した。

 いろりは目を閉じ、蛇珀はその細い腰と背を支えながら、身体を屈め、顔を近づけた。

 双方の吐息が触れる。
 ああ、もう少しで、唇が重なる。
 そう感じた時だった。

 ――不意に、蛇珀の気配が消える。
 
 待てども触れない温もりに、いろりはゆっくりと目を開けた。

 そこにあったはずの蛇珀の姿は、跡形もなく消え去っていた。

「…………じゃ、はく……さま……?」

 以前にも一度、こんなことがあった。
 
 二人が出逢ってすぐ、蛇珀がいろりの願いを叶えるまでは人間界に居座ると、その許可を狐雲に取りに行った時だった。

「蛇珀様……? 冗談ですよね? また仙界に少し行かれているだけですよね?」

 あの時と同じように、すぐに蛇珀は帰って来ると信じたかった。

 ――だが、いつまで経っても蛇珀は、いろりの前に姿を見せなかった。
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