蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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 蛇珀と空間移動をするのは初めてではないが、いろりはまだ慣れないため思わず目を閉じてしまう。

「もう着いたぜ。目を開けろ」

 蛇珀に促され、いろりはゆっくりと瞼を持ち上げる。

 ――すると、視界が桃色一色に染まった。

「う……わあ……!」

 あまりの美しさに言語能力が乏しくなる。
 
 いろりは蛇珀の腕を離すと、一歩、二歩と、足を進めた。
 
 踏みしめているのは灰色に近い土肌。
 蛇珀といろりが立っているそこは、未だ人が踏み込んだことがないような秘境の地。
 かなりの高さがある山頂は、人間界とはいえ人が登るにはあまりに危険な場所のため辺りには誰もいない。
 
 目下に重なるように広がる桃の花が咲き誇った山々の数々。まさに絶景である。

「……す、すごい! すごいです蛇珀様、綺麗です! 綺麗、す、すごい、綺麗!!」

 年相応の少女らしく、飛び跳ねる勢いで喜びを表現するいろりを見て、蛇珀の顔も綻ぶ。
 蛇珀はいろりが好きだと言った色の花のところへ連れて行ってやろうと考えていたが、春である今、桃色はもってこいであった。
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