154 / 158
エピローグ
4
しおりを挟む
二人を奥の席に案内すると、窓から見える雪はみぞれになっていた。雨が近いかもしれない。
以前もらった乳製品のお礼を改めて伝えると「あんなんでよければこれから送るべよ」と機嫌よさそうに言ってくれた。
二人は脱いだ上着を椅子の背にかけ、荷物を足元にあるカゴの中に入れると向かい合う形で着席した。
そしてメニューを開いたおじさんがコーヒーの欄で動きを止める。
「これはどういうことだべ? 自分でコーヒーが淹れられんのか?」
おじさんが指差したのは、コーヒーの写真横に書いてある台詞だ。「よかったらコーヒー体験してみませんか? お気軽にお声がけください」なんて文字が堂々と綴られている。
「そうなんです。喫茶店やってるくせにいまいちコーヒーに自信がなくて。なので我こそはという方はぜひ」
「へー、面白そう、あんたやってみたら? 牧場してるくせにブラックコーヒー好きなんだしさ」
「いやあ、そんな本格的には……どうだべなぁ」
おばさんにからかうように言われたおじさんは、困りつつもまんざらではなさそうだった。
こんなふうに会話のきっかけになるだけでも、嬉しいなと私は思う。
「今日は特別にいちごたっぷりのシフォンケーキもご用意してますからねっ」
「……それってショートケーキとなにが違うんだべ?」
「んだな」
「え!? ええっと……」
そう言われるとうまく切り返しができない。
まだまだ修行が足りないなと苦笑いを浮かべ頬を掻く私に、二人は陽気な顔を見せてくれた。
おばさんがハヤシライスの大盛りを、おじさんがナポリタンの小盛りを。注文を承ると軽く頭を下げ、キッチンに向かうために身体の向きを変える。
「うう~ん、猛烈な美味です、何度食べても素晴らしい……!」
ほっぺたが落ちそうだと言わんばかりに、とろけた表情を見せながらオムライスを口にする美青年。
胸のバッジをそのままに、今日もエメラルドグリーンの正装でパリッと決めた彼はカウンター席に居座っていた。
以前もらった乳製品のお礼を改めて伝えると「あんなんでよければこれから送るべよ」と機嫌よさそうに言ってくれた。
二人は脱いだ上着を椅子の背にかけ、荷物を足元にあるカゴの中に入れると向かい合う形で着席した。
そしてメニューを開いたおじさんがコーヒーの欄で動きを止める。
「これはどういうことだべ? 自分でコーヒーが淹れられんのか?」
おじさんが指差したのは、コーヒーの写真横に書いてある台詞だ。「よかったらコーヒー体験してみませんか? お気軽にお声がけください」なんて文字が堂々と綴られている。
「そうなんです。喫茶店やってるくせにいまいちコーヒーに自信がなくて。なので我こそはという方はぜひ」
「へー、面白そう、あんたやってみたら? 牧場してるくせにブラックコーヒー好きなんだしさ」
「いやあ、そんな本格的には……どうだべなぁ」
おばさんにからかうように言われたおじさんは、困りつつもまんざらではなさそうだった。
こんなふうに会話のきっかけになるだけでも、嬉しいなと私は思う。
「今日は特別にいちごたっぷりのシフォンケーキもご用意してますからねっ」
「……それってショートケーキとなにが違うんだべ?」
「んだな」
「え!? ええっと……」
そう言われるとうまく切り返しができない。
まだまだ修行が足りないなと苦笑いを浮かべ頬を掻く私に、二人は陽気な顔を見せてくれた。
おばさんがハヤシライスの大盛りを、おじさんがナポリタンの小盛りを。注文を承ると軽く頭を下げ、キッチンに向かうために身体の向きを変える。
「うう~ん、猛烈な美味です、何度食べても素晴らしい……!」
ほっぺたが落ちそうだと言わんばかりに、とろけた表情を見せながらオムライスを口にする美青年。
胸のバッジをそのままに、今日もエメラルドグリーンの正装でパリッと決めた彼はカウンター席に居座っていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
迦国あやかし後宮譚
シアノ
キャラ文芸
旧題 「茉莉花の蕾は後宮で花開く 〜妃に選ばれた理由なんて私が一番知りたい〜 」
第13回恋愛大賞編集部賞受賞作
タイトルを変更し、「迦国あやかし後宮譚」として5巻まで刊行。大団円で完結となりました。
コミカライズもアルファノルンコミックスより全3巻発売中です!
妾腹の生まれのため義母から疎まれ、厳しい生活を強いられている莉珠。なんとかこの状況から抜け出したいと考えた彼女は、後宮の宮女になろうと決意をし、家を出る。だが宮女試験の場で、謎の美丈夫から「見つけた」と詰め寄られたかと思ったら、そのまま宮女を飛び越して、皇帝の妃に選ばれてしまった! わけもわからぬままに煌びやかな後宮で暮らすことになった莉珠。しかも後宮には妖たちが驚くほどたくさんいて……!?
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
神様の住まう街
あさの紅茶
キャラ文芸
花屋で働く望月葵《もちづきあおい》。
彼氏との久しぶりのデートでケンカをして、山奥に置き去りにされてしまった。
真っ暗で行き場をなくした葵の前に、神社が現れ……
葵と神様の、ちょっと不思議で優しい出会いのお話です。ゆっくりと時間をかけて、いろんな神様に出会っていきます。そしてついに、葵の他にも神様が見える人と出会い――
※日本神話の神様と似たようなお名前が出てきますが、まったく関係ありません。お名前お借りしたりもじったりしております。神様ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる