鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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 きゅっきゅと音が鳴るほど綺麗に窓を磨き上げる。
 雑巾を滑らせたガラスの向こうには、綿毛のような白い結晶が絶え間なく降り注いでいる。
 光と影のコントラストが高い空をコバルトブルーに染め、一年に一度の特別な日を幻想的に演出していた。

「うわぁ、すごい」

 今年は特に寒いとは聞いていたものの、ここまでだとは思わなかった。
 私が……いや、私たちが営む喫茶店から見える建物も道路もみんな純白色の化粧をしている。
 スコップですくって移動するほどではないけれど、地面が隠れる程度にはうっすら雪が積もっていた。
 この天候じゃ自然と客足は遠のくだろう。 
 デートに最適なレストランなんかは、予約でいっぱいに違いない。
 
「張り切って限定メニュー用意したけど、これじゃ余っちゃいそう」
「なら夜に二人で食えばいいだろう、しっぽりとな……」

 店内のぽかぽかした空気に語尾をにじませながら、私の両肩にそっと手を置くのはこの店のもう一人の主。
 首を傾け背後を見上げれば、スウィーツにも劣らない甘い微笑が待っている。
 その左手の小指には、私と揃いのプラチナリング。かつて契約の証があったそこには、運命の赤い糸が大切に秘められている。
 
「いいんですか? 生クリームも果物もけっこう冷たいですよ」
「萌香のためなら善処してやる、俺がその気になってできないことはないぞ」

 あれから閻火は人間界の生活に慣れるため、冷たいものも食せるように練習中だ。
 アレルギーの免疫治療じゃないけれど、毎日少しずつ口にする量を増やしてがんばっている。
 その甲斐あってか最初はとてつもなかった嫌悪の表情が和らぐようになった。
 今では熱を通していないものでも、それなりに感じるようになったそうだ。
 アイスやかき氷などを「うまい」と言う日も夢ではないかもしれない。

「ちょっとー、風子もいるんですけど~」

 店員仕様の服装をした妹が、少し不満そうに目を細めながら顔を覗き込んできた。
 金色のトナカイがついた赤いヘアゴムが可愛らしい。お決まりのツインテールも今日はちょっぴり特別だ。
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