鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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究極の選択

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 公園を囲むように咲き乱れた真紅のもみじ。
 燃えている。
 清廉と熱情を謳い陽光さえ火の粉に変えて、私を見下ろしながら寛容に守っている。
 冷気により色づきを増した秋の象徴。
 私の心を捕らえて離さないのは、それを通した先に彼がいるからだ。
 ――閻火みたい。
 想いが文字に変換された刹那、膝から崩れ落ちた。
 手から離れた買い物袋が、音もなく地面に倒れる。
 祈りを捧げるようにうずくまり、顔を覆う。
 制御できない悲哀の雫が、指の隙間から漏れ砂利を濡らす。
 自分が選んだ道なのだから涙を流すようなことじゃない。
 そう気を張っていたのに、あまりにひどい仕打ちだ。
 紅色に染まる葉の美しさが、今の私の目にどれほど酷に映ることか。
 どうして私はいつも、失ってから気がつくのだろう。
 おばあちゃんの時に散々後悔したはずなのに。
 もっと優しくすればよかった。
 もっと素直に感謝を伝えて、一緒にいられる時を大切にすればよかったのに。
 心だけ攫われたまま、置いてけぼりの空っぽな身体。
 だけどどうしても言えなかった。
 閻火とこのまま一緒に喫茶店をして暮らしたいだなんて――。

 瞼が腫れるくらい泣いた頃、髪になにかが触れるのを感じた。
 湿った手のひらを下ろすと、砂の上の落ち葉が目につく。
 ひらり、ひらり。
 桜の花びらのようにたおやかに舞い散る風情の欠片かけら
 その一つに手を伸ばした時だった。
 再度、私の頭に感触が生まれる。
 さっきとは違う、カサリと乾いた音とともに、遠のく感覚。
 
「ずいぶんと葉っぱまみれだな」

 錯覚とも思えない、すぐそばで響く声を勝手に目が追う。
 
「ほう、その様子から見て牛乳を買い足しに行ったところか」

 もみじの化身のような男がナイロン袋を一瞥して言った。
 真冬並みの気候に着物一枚と草履姿。
 それでも寒々さを与えないのは、真っ赤な葉よりも鮮烈な紅色の髪と目のせいだ。
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