鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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究極の選択

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「期限を、約束を破ったなら、それって嘘をついたことにならないの?」

 閻火は顔の前に立てた人差し指を左右に振ってみせた。
 
「確かに規定は聞いていたが、それに対して了承したわけではない。こんなこともあろうかと明確な返事はしていなかった。問題ないだろう」

 なるほど、さすがは閻魔大王。地獄のシステムをよく理解しているようだ。

「ええ、おっしゃる通りですよ。しかし問題はそこではありません。あなたが不在の間、地獄門では最期の審判待ちの行列ができています。ただでさえあなたのお情け判決で地獄行きの人間が溢れているのに、拷問器具の作製も追いつかないくらいだと鬼たちが嘆いていましたよ」
「地獄が混み合うってことは……」
「お察しの通り、閻火殿は悪人に厳しいのです。そうでなければ善人が報われないと努力して最年少で大王の座につかれたのですよ」

 桃源の話には驚かされるばかりだった。
 閻火は「余計なことを」と相変わらずそっぽを向いている。
 藍之介が言っていた「鬼の中の鬼」の由来はここにあった。単に怖いのではなく、悪人が恐れる鬼という意味だったのだ。
 しかも現在の地位に至るまで努力を要したことや、志があったことが意外だった。
 鬼のくせに、人間よりも人情味があるなんて。

「先代の閻魔大王の跡を継いだのかと思ってました」
「鬼は世襲性ではないからな」

 閻火が築き上げた地獄の城。それは私にとっての喫茶店と同じだろう。
 閻火が来てから私にさまざまな変化が起きたように、彼には彼のドラマがあるはずだ。
 
「と、いうわけなので、早く帰りましょう」

 私の知らない歴史に思いを馳せる暇もなく、桃源が切り込んだ。
 まだ三日あると信じていたその時が、突如として目の前に現れた。
 閻火と行くか、ここに残るか、決断の二文字が降りかかる。
 静まり返る空間で、閻火は私に真摯な眼差しを送っていた。
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