鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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究極の選択

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「お前のことは見るだけで怖気が走る、もっと離れろ」
「別に私がなにかしたわけではないのに失礼な話です」

 彼は苦笑いを浮かべながら一歩下がると、私に目を向け深々と頭を下げた。

「申し遅れました、私の名は桃源とうげん、この世やあの世などありとあらゆる世界を繋ぐ役割をしています。ちなみに住まいは天国でして、昔から桃の文字を受け継ぐ使者は鬼には強いということで、鬼に問題が起きた時にはよく駆り出されます」

 天国に住んでいるなら物語で言うところの天使だろうか。
 鬼は桃太郎に退治された経歴……御伽噺があるので遺伝子レベルで毛嫌いしているとはそういうことか。確かに髪や目も黄桃に見えなくもない。服は葉っぱか。
 いや、そんなことよりも、今はもっと気になることがある。鬼に問題が起きたとは。

「地獄から呼び出しがあって困ったものです、私も暇ではありませんからね。あなたを連れ戻しに来たことはわかっているでしょう?」

 「えっ?」と思わず声を漏らし改めて閻火を見る。まだまだ状況が飲み込めない。

「人間の女性を娶るのに与えられた期間は三日ですよ、なのにあなたと来たら……」

 桃源はふう、とため息をつくと緩やかに首を横に振った。
 私の脳内にはその言葉が反響していた。
 それが事実なら閻火はとんでもない大遅刻だ。だってここに来てからもう一ヶ月近く経過している。
 だから閻火は契約を交わす時、最初に三日を提示したのだ。

「閻火殿がそれほどご執心な人間、偵察がてら覗いてみたあの日から結界が張られ、今の今まで踏み込めませんでした。ようやく力が弱まってきたのでしょう。こんな荒技を成せる鬼はあなたくらいですよ」

 桃源はあきれと感服を混じえた表情で述べた。
 顔を見るのも嫌なのだろう、閻火はずっと桃源から目を逸らしたまま腕を組んでいた。
 
「ちょっと待って」

 そこで浮上した疑問のため、桃源の話に割って入る。
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