鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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 思えばお父さんは、私がおばあちゃんの喫茶店を継ぐのを反対しなかった。
 積極的に賛成はしなかったものの、未成年が店を経営するために必要な登記の承諾もしてくれた。
 私の大切なおばあちゃんは、お父さんにとっては離婚した女性の母親だ。それでも葬儀をしてくれた。小さな頃から懐いていた私の気持ちを汲んでのことだと今からわかる。
 視野が開けることで、見方一つ変わることで、こんなにも心を解き放てるなんて。
 この晴れやかな心地を、今すぐ伝えたい。
 スマートフォンをエプロンのポケットにしまい、澄み渡った空を見上げる。
 雲一つない青い天に、ふわりと優しく浮かぶ顔。それは幼なじみでも妹でも女友達でもなかった。
 燃えるような紅色の髪と瞳を持つ鬼。
 私しか知らない尖り、虹色の角と靡く毛先。
 いつも余裕ぶって斜に見ている、かと思えば理屈もなしに大胆に主張する。
 彼を見ていると、ありのままでいいのだと思えた。
 完璧にはほど遠くても、少しだけがんばりを褒めて、自分を好きになってもいいんじゃないかって。

「……なんで、好きになっちゃうかなぁ」

 考えれば考えるほど深みにハマってしまう。
 新しい世界を教えてくれたのが、同じ人間だったらよかったのに。
 人間は非力でも、気持ちが通じれば一緒にいられる。
 けれど閻火は違う。
 時が来れば二度と手の届かない遠い場所に帰ってしまう。
 遠距離恋愛の次元ではない。
 あと半月も経てば、どちらか結論が出るだろう。
 私が閻火においしいと言わせるか、そうでなければ地獄に嫁入りするか。
 初恋は実らないというけれど、想いが重なっても叶わないとは知らなかった。
 いつか風子が言っていた「恋は落ちるもの」なんて、あの時は鼻にもかけず笑っていたくせに、それをまさに、きっとあの頃からすでに経験していたのだ。

「……絶対好きって言ってやらない」

 切ないほど美しい空に、この気持ちを連れ攫ってくれるよう願った。
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