鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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転機

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 最初は三人でカフェに出かけるなどどうなるかと思いきや、案外和やかな形を持って終わりを迎えた。
 可愛いインテリアにおいしい料理、目にも嬉しい情報に味覚も刺激を受けた私は早く帰りたくなった。
 気持ちが高ぶっているうちにこの創作意欲を形にしたい。今なら幻のメニューでも生み出せそうな気がする。
 そんな私を見た閻火は「もっとデートをしたかったぞ」と愚痴り、藍之介は「職業病みたいなものだね」とぼやいていた。
 都市部から電車で数分揺られ、意気込みと一緒に二人を連れ帰る。
 そして心が前を向いている時は、明るい展開を引き寄せるものだ。
 
 私がアルバイトをしている居酒屋を通り抜け、最寄駅から家へと歩く。
 踏みしめる感覚ではわからないほどなだらかに沈んでいく道、下町へのコンクリート坂。
 マンションが連なる駅前から、徐々に低いアパートや戸建の住宅街へと変わっていく。
 ぽつりぽつりと間隔が開き少し寂れた古風な空間が見え始めると、帰路に着いたのだと実感する。そして今日も当然それが繰り返されるのだと思っていた。
 けれど私の前に広がる光景は今まで見たことがないものだった。

 喫茶店の周辺に人だかりができている。
 左隣の文具屋は数年前からシャッターが下りたままだし、右隣の花屋はうちと同じ定休日で、どちらも閉まっている。
 そもそも営業中でも来客が押し寄せるような人気店はこの商店街にはないため、否応にも不安が募る。
 騒ぎの真相を確かめようと徐々に足を速めると、現場の詳細が明らかになる。
 並んだ人々の先頭はなんとうちの喫茶店だった。今日は休みなので店内は暗く、扉のノブにはクローズの看板がかかっている。そこから蛇の身体のように歩道沿いに長い列ができていたのだ。
 一瞬ボヤ騒ぎかと焦ったけれど、煙らしきものも見当たらず火事を示すような匂いもない。ということは……?

「……バ、ズった……?」
「お前、意味もわからず言っているだろう」
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