鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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転機

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 可愛い顔で恐ろしいことをさらっと言ってくれる。
 いい仕事をしたと曰うもう一人の自分はそっとしておこう。

「なにかと隠れてやるのが得意だな、お前は鬼よりも人間に向いている」
「それはどうも、萌香は人間の男性と結婚したいらしいから光栄だよ」

 そういえばそんなことを言った気もする。
 私の無意識な言動が、藍之介に鬼だと告白させる機会を遠ざけていたのかもしれない。

「ふん、どうせ俺と出会う前の話だろう」

 閻火は鋭い答えを返しながら、食後に頼んだ熱々のコーヒーを躊躇せずにぐっと飲む。この景色も見慣れたものだ。
 対照的に見える二人に共通しているのは鬼としての性質。
 昨日突然姿を消し、結局戻ってきたのは謎の美青年が帰ったあとだった。
 当然その後事情を説明したけれど、二人ともなんとも歯切れが悪くはぐらかされてしまい今に至る。

「あの真っ黄色の髪をした人、知り合いなんでしょ?」

 不意打ちに聞いてみると、こんな時だけ阿吽の呼吸のように目を合わせる二人。
 都合よく同調するのはやめてほしい。

「嘘はつけないっていっても、案外秘密主義だよね? 知らないこと、けっこうあるし」

 黙秘は嘘には入らないようだし、口に出して欺きさえしなければ天邪鬼になる心配もないらしい。
 ちょっとした仲間外れに似た寂しさを感じていると、藍之介が緩やかに助け舟を出す。

「確かに彼とは知り合いだよ。だけど特別僕たちと関わりが深いわけじゃない。鬼なら誰でも知っている、苦手なのは遺伝子レベルで刻まれている、とでも言おうかな」

 藍之介の話に隣に座った閻火は「まあ、そんなところだな」とため息混じりの声を載せた。
 
「一つだけ言えるのは、この大王サマは萌香にはどうしようもなく甘いってことだよ。地獄では鬼の中の鬼だと言われているくせにね」
「蒼牙……お前はいつも一言多い」
「これは失礼しました」

 悪びれる様子もなく閻火の嗜めを受け流す藍之介。
 小慣れたやり取りに地獄での主従関係が目に浮かぶようだった。
 閻火が鬼の中でも恐れられている存在なんてピンと来ない。もし仮に私に甘かったとして、あの美青年とどう繋がるのか。
 「お前はなにも心配しなくていい」と微笑する閻火が、微かに胸に影を落とした。
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