鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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転機

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 わかるよわかる。写真映えするもんね。
 それでより快適なカフェタイムを過ごせるなら言うことはない。と思っていたのだけれど。

「こんなにおっきいの食べ切れるわけないよね」
「いいじゃん残しちゃえば、どうせ写真のために頼んだんだし」
「そうだよね~、あたしたちが買ったんだからどうしようと自由だし」

 さっきまでキラキラしていたはずの笑顔が、ケラケラ笑う悪魔のように見えた。
 がんばって食べたのに無理だったならまだしも、最初から捨てる気で注文するのは違うのでは。
 私には到底納得できないけれど、注意したところで話を大きくして店に迷惑をかけては元も子もない。
 せめて私はクリーム一滴残さずありがたくいただくからね。
 心の中でパフェに話しかけながらもう一口スプーンを含むと、さっきと同じ場所から「もがっ」と苦しげな声がした。
 再び視線を向けた先、一人の女の子がガラスの食器を両手で持ち、それを思いきり自分の口に押しつけていた。
 中身はあの特盛パフェなので、ほとんど顔全体で受け止めパイ投げされたような有様だ。生クリームとチョコレートでべたべたになった顔はかわいそうなほど歪んでいた。
 それを見たもう一人の彼女は「あははっ」と爆笑していた。

「ちょっと、なにしてんのいきなりっ」
「わ、わかんな、て、手が勝手に」
「なに言ってんの、意味わかんな」

 今度は笑っていた彼女の首が、突然ガクンと降下した。
 目の前のパフェに顔拓を作る勢いで顔が埋まった。
 必死にクリームの沼から抜け出そうと喘ぐ二人と、こそこそ噂話を始める客たち。
 明らかに自分の意思以外が働いた光景に、そっと前にいる二人に視線を移動させた。
 
「……絶対、したよね?」
「俺はこんな姑息なことはしない」

 閻火は嘘はつけない。ということは。
 するりと横目を滑らせれば、綺麗に食事を終えた藍之介が紙ナプキンで口元を拭っていた。

「食べ物を粗末にするなんて、万死に値するよね」
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