鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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転機

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 ちゅるん、とカルボナーラのパスタを吸い込む藍之介の隣で、急に閻火が顰めっ面をした。
 その手にはサンドウィッチが握られている。
 食べかけの部分を見てみると、どうやら具材のトマトがキンキンに冷えていたらしい。
 すごく嫌いなものを無理やり食べさせられた小学生のようだ。
 大人っぽいのか子供っぽいのか、よくわからない閻火に自然と笑みが漏れた。

「本当に冷たいの苦手なんですね、閻火の舌ってそんなに敏感なんですか」
「角も敏感だぞ。あと身体も」
「キッズスペースがあるのでやめてください」

 特に放送禁止用語は使用していないけれど、閻火が言うと卑猥に聞こえてならない。妙に色気があるのだ。人間の年齢にしたら私と変わらないくせに。
 気づけばあんなにあった大量の皿がなくなっている。当たり前だ、食べたのだから。
 これ以上注文してはすべてのメニューに売り切れシールが貼られることになるで、腹八分目で我慢した。
 とはいえまだ楽しみは残っている。
 ミルクアイスの上に大量に盛られた生クリームとチョコレート、それにウエハースとイチゴまで飾られた激烈に甘い最高パフェだ。
 軽く顔のサイズの凌駕しているカロリー地獄に、禁断の細長いスプーンを投入し大きく開いた口へと運ぶ。

「ぐうう、お、おいひいっ、死むーっ!」
「鬼にも勝る食欲に好き嫌いがないとは、見上げたものだな」
「甘いものは別腹ですから!」
「なにぃ、人間の女にはそんな便利機能が備わっているのか!?」
「もっと勉強しなよ」

 はん、と藍之介が鼻で笑ったあと、隣のテーブル席でカメラのシャッター音が連続して聞こえた。
 振り向くとそこには、高校生くらいの可愛らしい女の子が二人向かい合って座っている。
 秋カラーのモノトーン系のワンピースにしっかり化粧をしてベレー帽をかぶっている。
 テーブルの上には私と同じパフェが置かれていて、それをいろんな方向から忙しなくスマートフォンの画面に収めていた。
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