鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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転機

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「なぜお前がついてくるのだ、このお邪魔虫め……!」
「僕が先に萌香と来ようと思っていたんだから、邪魔なのは君の方じゃないの、誰のおかげで並ばずに入れたと思っているのさ?」

 確かに藍之介が前もって予約をしてくれていたからすんなりと入店できた。
 とはいえ私が行くとも言っていないのに先回りして席を押さえる辺り、閻火より藍之介の方が強引に思われた。
 けれどそのおかげで、玄関先から階段の下まで続いている行列に巻き込まれずに済んだ。たまたま四人席に変更もできたので結果オーライと言えるだろう。
 
「まあまあ二人とも、せっかく来たんだから楽しく食べようよ、全部めちゃくちゃおいしいから」

 至近距離で火花を散らす二人を宥めつつ、私のそばにあるお皿を寄せてスプーンとフォークも添える。
 すると仕方がないといった様子で互いから視線を外し、各自食事をする体勢に入った。
 とりあえずは一時休戦。よかったよかった、と安堵していると高い声音に混じり四方から視線を感じた。
 チラチラ黒目だけを動かし見える範囲だけでも、私たちが注目を浴びているのはわかった。
 食事に夢中で気づかなかったけれど、店に来てからずっとこうだったのだろう。
 こんなおしゃれカフェに来ているのは、女子力の高いレディーがほとんどだ。
 そんな中、普段と変わらないカジュアルな服装にアクセサリーの一つもつけていない地味顔の私。どうしてこんな女が二人の美男子を連れているのか、話のネタにされているのを感じる。

 落ち着いて考えてみればとても貴重な体験をしているのだろうが、あまりに格差がありすぎて、優越感以前に二人の趣味への疑念が湧いてくる。
 できればモテ期の到来は人間の男子に使いたかったけれど、後先考えず情けをかけた自分のせいでもあるので仕方がない。
 玉ねぎたっぷりの照り焼きチキンピザを頬張りながら、珍妙な生き物でも眺める気持ちだった。
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