鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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 そんな閻火は今、私と向かい合う形でウィンザーチェアに腰かけている。
 次々と運ばれてくる料理が、四人がけのテーブルにはみ出す勢いで増えていく。
 「いっただきまーす!」と張り切って合掌すると盛大に食べ始めた。
 喫茶店の食材で似たものばかり食べていた私にとってはまさに天国だ。料理は好きでも、誰かに作ってもらえるという喜びもある。いつもは提供する側なのに提供される側になるという気楽さ。サービス業をしている人なら誰でも多少は頷けるはずだ。
 閻火はまだ口をつけるでもなく、テーブルに片肘をついた状態で満足げにこちらを見ていた。

「いい食いっぷりだ、丈夫な子が生めるぞ」

 頬張っていたガパオライスのパプリカが気管に入りかけ咽せ返る。
 咳き込みながらなけなしの胸を叩き、ブルーハワイを思わせる色鮮やかなジュースを喉に流し込んだ。微炭酸のシュワシュワが、頭にまで上り弾けるようだった。
  
「好きなだけ頼め、今日は俺の奢りだからな」

 わざとらしく、からかうように言う。
 鬼にとってお金は湯水のごとく溢れ出せるものだ。だからといってそれを与えてもらおうなんて思わない。うちに来てから閻火は、おいしいチャレンジも含め当然のように飲食している。なのでそのお返しに、今日はご馳走してやるという話だ。それなら理にかなっているし、この際遠慮なく食べ尽くしてやろうと決めた。

「ご機嫌ですね」
「そうだな、これが…………二人きりならもっとよかったのだがな」

 なぜ最初から四人席に案内されたかというと、小さなテーブルでは収まりきれない料理を頼むことがバレていた……からではない。
 向かい側にあるもう一方の席、つまり閻火の隣にはホットミルクを上品に啜る幼なじみの姿があった。

「おいしいけれど、砂糖が少ない。やっぱり萌香のが一番好きだな」

 アクアブルーのニットカーディガンに白のインナーとスキニーパンツ。閻火と対照的なシャボン玉のように爽やかな出で立ちの藍之介は、真横の怨念などなんのその、私に穏やかに笑いかけた。
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