鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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転機

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 その翌日、週に一日の貴重な休み、私は泥のように寝て過ごし……てはいなかった。
 クリーム色の木造の壁に囲まれた広い空間。森をイメージしているらしく店内の至る所に緑と控えめな花が飾られている。出入り口のレジ横にあるローテーブルには髪飾りやネックレスなどの小物が置かれていて、インテリアと販売を同時に担っていた。
 アクセサリー作家や雑貨屋とコラボしているのだろう。おしゃれなカフェではよくあることだ。以前は羨ましいと思っていたけれど、今はもうそんな気持ちは湧かない。
 うちにはうちのよさがあるはずだから。
 だから、つまり……今は完全にお客様として来ているのだ!

 喫茶店とカフェは同じだと思い込んでいる人もいるけれど、ちゃんと明確な違いがある。喫茶店は主にお菓子類や調理の簡単な軽食類。カフェはそれに加えガッツリ系のご飯ものやアルコールを扱える。店の体系により必要な資格も変わってくるのだ。
 そしてここはカフェなので、定番のパンケーキやサンドウィッチだけではなく、うちでは出せないチキン南蛮やロコモコなども注文ができる。
 しかもお値段のわりに特盛が素晴らしいと有名な店なので、機会があれば絶対に一度は来たいと思っていたのだ。

 だから今朝、寝ぼけ眼の私を叩き起こし「萌香、デートするぞ!」と意気込んだ閻火に対し「ならここがいい」と返事した。
 半分夢の中に召喚されたまま即答できるとは、さすが食い意地が張っているだけのことはある。そもそもデート=食べることだと思っている時点で、なにか間違えているような気もしないことはない。
 けれど閻火は私がデートを受けたことに感激したらしく、上機嫌で洋服を選んでいた。やっぱり私の部屋にあるいつ買ったかもわからないようなファッション誌を見ている。それではろくな参考にならないと思い、スマートフォンで「メンズ、デート」と検索しそれらしいものを勧めた。すると私に見立ててもらえたのが嬉しかったのか、あっさりと決めた服装に早変わりした。
 遠足前の子供のように浮き足立っている閻火を見ると、なんだか少し可愛いかも、と感じてしまった。
 のは束の間。鏡に映る自身をあらゆる角度から眺めうっとりする姿に熱が急降下した。
 茜色のジャケットに黒のインナーとスキニーパンツ。モデルよりも似合っていると思ったことは内緒だ。これ以上調子に乗せては危ない。
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