鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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個性的な客

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 まさかそんな誘いを受けるとは思っていなくて、コーヒーカップを両手にしたまま瞬きを二、三回繰り返す。
 そのあと、あーなるほど、と彼女の行動を振り返り納得した。メモをしたためていたのはそのためだったのか。

「大丈夫ですよ、私ネット社会に疎くて拡散とか協力できないですけど、それでもよかったら」
「それはそれは、どうもありがとうございます。よかったら検索してみてください、リーフムーンというネームでやっているので」

 へー、と相槌を打ちながらも絶対見ないなぁと心の中で謝る。
 きっと趣味で食べ歩きの感想でも書いているのだろう。
 私も喫茶店を継いだ当初は宣伝のためにSNSに登録した。けれど飛び交う情報量の多さと移り変わりの速さについていけず、結局アカウントだけ作ったままで放置状態になっている。
 学生時代の女友達は上手に使いこなしていたけれど、今頃どうしているのだろう。
 ふと過去を懐かしむ思いがよぎった時、分厚いレンズに浮かぶ瞳が怪しく光った。

「……バズったらごめんね?」

 意味がわからず首を傾げていると、突然後ろから肩を叩かれた。
 小刻みにペチペチする手はやっぱり風子だ。
 妹は唇を結んだまま笑みを浮かべ「見て見て」と言わんばかりに人差し指で出入り口を示している。
 指先が記す線をたどるように扉を見ると、透明なガラスにへばりつくように立っている二人の女子がいた。
 私と目が合うなりやたら嬉しそうに手を振ってアピールしている。
 その仕草や雰囲気からたった今思い出していた高校時代の友達だと気づいた。見た目が変わっていたので一瞬誰だかわからなかった。
 そういえば二人は私の実家近くに住んでいた。チラシを手にしていることから、風子や葉月ちゃんが配ったものを見て訪ねてくれたようだ。
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