鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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個性的な客

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 これはさすがに怪しまれるのではと、焦って辺りを見回すけれど、すぐに私の杞憂だとわかる。
 店内にいる人々の視線はキッチンとは逆側に注がれていた。
 最初に目を引いたのはラメが散りばめられたようなレモンイエローの長髪。耳の横に垂らした後れ毛以外を高い位置で一つに束ねている。若葉色のジャケットに深緑のスラックスは、モデル体型だからこそ着こなせる組み合わせに思われた。
 さっきまでそれなりに賑やかだった店内がしんと静まり返っている。
 圧倒される力強い美貌がこんな古い喫茶店に立っているのだ。合成写真のように浮いているので注目を集めても仕方がないだろう。
 ぽーっと赤らめた頬で棒立ちしている風子と葉月ちゃんに代わり、私がお迎えに出る。
 フレンチのフルコースでも似合いそうな風貌に、店を間違えていないか心配になった。
 近づくと容姿が細部までわかる。瞳の色は髪と同じで、色素の薄い肌はうっすらピンクがかって見える。骨格から男性と判断がつくけれど、中性的な美人だ。

「あなたが栗添萌香さんですね?」

 当然のように名前を呼ばれ、いらっしゃいませと言うのも忘れ目の前に立ち止まる。
 
「あ、あの、失礼ですがどこかでお会いしたことが?」
「いいえ、お会いするのは初めてです、こちらは情報として存じ上げているだけですので。それにしても……」

 彼は気になる台詞を残したあと、ぐるりと目だけで室内を見渡す。そして最後に私を見ると、安心させるように穏やかに微笑んだ。

「ずいぶんと健やかな生命力が溢れていますね、これは彼が引き寄せられるのも頷けます」

 彼、と言われピンと来るものがあった。
 脈絡がないような言葉も人とは違う不思議な魅力も、この世のものではないと思えば納得できる部分があった。
 
「安心してください、あなたの敵ではありませんので……ルールさえ守っていただければ、ね」

 ざわざわ、静寂の森に波風が生まれる。
 小さな揺らぎが木々を軋ませるように心が騒めきを覚えた。
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