鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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個性的な客

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 おじさんたちが言い終わるや否や、私と閻火の間に藍之介が現れた。
 さっきまでお客様に料理の説明をしていたはずなのに。人外の能力を発揮した可能性が疑われる。

「僕はそのつもりですよ、おじさんたちも応援してくださいね」

 満面の笑みで身体をねじ込ませる藍之介に、おじさんたちは顔を見合わせ「あ、うん?」と曖昧な返事をした。
 近所の人たちは商店街の一角に住む藍之介のこともよく知っている。その中にはおじさんたちのように私たちの関係が恋人だと勘違いしている人もいる。近頃、藍之介の雰囲気がめっきり明るくなったとの噂に加え、今回の件でさらなる議論を呼びそうだ。
 本人は周りの反応など気にも留めず、以前に増して爽やかになった笑顔を私に振りまいた。

「そうだ萌香、今朝エアコンと自転車も直しておいたからね」

 これには黄色い声で叫びたくなるほど感激した。どうりでいい感じに店内があたたまっているはずだ。そのおかげでダウンコート姿のお客様は汗を噴出しているけれど。
 当然その修復方法は鬼の力だろう。どうせ正体がバレたなら開き直って活用することに決めたらしい。
 
「うわあっ、ありがとう藍之介、助かるー!」
「どういたしまして、僕はどこかの偉そうな奴と違って気が利くからね」

 明らかに誰かを意識している口ぶりで、私の両手をぎゅっと握りしめる藍之介。

「もう秘めるのはやめた、これからは正攻法で行かせてもらうからね」

 いきいきとした表情で詰め寄る藍之介の背中に、冷凍庫から取り出した氷を滑り込ませる閻火。
 ピャッと身体を跳ねさせた藍之介は、両手でシャツ内の冷たい塊を取り除こうと躍起になっていた。
 同種族なので互いの弱点は熟知しているようだ。

「懲りんな蒼牙、萌香は俺の女だと何度言わせれば気が済む」
「そっちこそ藍之介だって何度言わせればわかるのさ、この俺様大王」 
「相変わらずの減らず口だな」
「君に言われたくないよ」

 口調こそ穏やかなものの、睨み合う瞳には赤と青の炎が宿っている。
 閻火と藍之介の熱で目玉焼きができそうだなぁ、なんてくだらないことを考えていると、来客を知らせる鈴が鳴った。
 その瞬間、二人はなにかを察知したように姿を消した。
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