鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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個性的な客

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 女の子のお母さんは化粧気のない目を見開いたあと、ほっとしたように眉尻を下げた。

「ありがとうございます、この子悪さばかりで、おしゃれなカフェなんかは気を使って行けなくて……」
「デザイン性が高い店は小物やインテリアも凝ってますから、触って壊したら怖いですよね」
「そうっ、そうなんですよ~!」

 同調に感激するように強い頷きが返ってくる。
 本棚の上に置いてある自由帳とクレヨンを手に取ると、女の子と目線が合うようにしゃがんだ。

「お絵描きしてみない? ここの痛い痛い傷さんに、絆創膏みたいに貼ってあげよ?」
「わぁい、お絵描き大好きー!」

 未成熟の短い両手をバンザイしながら満開の笑顔。いたずらっ子だっていいじゃない。昔から子供は元気が一番って決まってる。
 こんなこともあろうかと用意していた幼児椅子に折り畳みのローテーブルを出して、女の子を案内する。これでお絵描きしている間に、お母さんが試食できるはずだ。
 よしよし、と自分の中で納得していると、誰かの視線を感じて首を傾けた。
 すると斜め横の扉付近に立っている、私より少し背が高い独特な人物が目に入った。
 黒縁メガネに白い布マスク、ニット帽にすっかり髪を収め、真冬並みのダウンコートにジャージのようなズボン姿。
 もこもこした服装に顔全体を覆われているせいで、性別も体系もわからない。
 その人は手のひらサイズのメモ帳に、忙しなくペンを走らせていた。
 時折チラチラこちらを窺い、まるで私の様子を記録しているようだった。
 数回顔の上下を繰り返し、そのうち視線がかち合うと、ようやく私が見ていることに気づいたらしく、一瞬身体をびくつかせたあと軽く会釈した。
 私はお返しに深く頭を下げると、すぐそばまで歩いた。

「こちらにどうぞ、立ちっぱなしで申し訳ないですが五百円で食べ放題なので」
「ええ、ええ。面白そうなことをやっていらっしゃると思って来たのですよ」
「お客様もチラシを見て?」
「まあ、そんなところです」

 声を聞いたところ女性のようだ。
 チラシ効果の偉大さ。宣伝の大切さをひしひしと感じた。
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