鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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個性的な客

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 みんなががんばってくれた成果だろう。開店時間からほどなくして、ちらほらと人手が見えてきた。
 「いらっしゃいませー!」と花が咲いたような笑顔を振りまくのは風子だ。愛想のいい美少女なんて鬼に金棒。ふりふりのメイド服の方が似合いそうだけれど、今日は私と同じ白いシャツにジーンズというシンプルな装いだ。風子だけではなく、みんなそう。店名が印字されたエプロンをつけている閻火には、少し吹いてしまった。
 店にあるテーブルを中央に寄せて一塊にすると、その上に白いレース裾のクロスをかぶせた。下を覗かなければ一つの大きなテーブルに見える。細かいことは気にしない。椅子は片隅に寄せ、立ち食い蕎麦ならぬ立ち試食会。庶民の立食パーティーだと思い込めば大丈夫。
 所狭しと並べられた料理の数々は、私が朝から腕によりをかけてこしらえたものだ。閻火は隣で見ている間、コピーを出現させてみたり、興味本位で一緒に作ったりしていた。
 ちりりん、と鈴が鳴る度に楽しそうに明るく対応する風子に対し、葉月ちゃんは「いら、いらっしゃいま」とどもって挨拶もままならない。そんな彼女のそばに後ろ足で立ったしまちゃんは、顔の前に出した両手を動かし招き猫のポーズをしていた。飼い主に似ず人懐こいようだ。

「葉月ちゃん、大丈夫?」

 歩み寄って尋ねると、店の隅で肩を縮めていた葉月ちゃんが少し安心したように顔を上げた。

「あ、は、はい、すみません、あたし人見知りで……」
「でも私とは最初からけっこうスムーズに話してたような?」
「そう、ですね。萌香さんはあまり壁がないというか、話しやすかったので」

 さらりと嬉しいことを言ってくれる。
 そこはおばあちゃん譲りだと思いたい。
 
「やってみたい気持ちがあるなら次は私とお迎えしてみる?」
「は、はい、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げる葉月ちゃん。知っていたけれど、なんて真面目な子なんだろう。黒歴史時期の私に見せてやりたい。
 心で反省会をしながら風子に、次のお客様が来たら私たちが声がけするね、と伝える。
 「がんばってね葉月!」と顔の前で両拳を作り応援する風子に、困ったように笑う葉月ちゃん。
 なんかいいな、こういうの。
 私もふと学生時代の女友達を思い出した。
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