103 / 158
個性的な客
1
しおりを挟む
それからというもの藍之介は変わった。
容姿や立ち振る舞いは以前と同じでも、口数と笑顔が増えた。
もう鬼であることを私に隠す必要もないため、地獄での思い出なども聞いてもいないのに話してくれる。
アルバイトの家庭教師をあっさり辞め、土日祝と学校が早く終わった日はうちで働くことになった。とはいえ無給だ。藍之介も閻火のようになにもない空間から物質を生み出せる。つまり鬼にとってお金など欲しければいくらでも手に入るのだ。人間の暮らしに溶け込むために大学は形だけでも一応続けるということだった。
それから藍之介の毎朝の習慣だった、モーニングがホットミルクになった。
本当はずっとそうしたかったのに、私がコーヒーの練習をしているため合わせてくれていた。
そんな気遣いの嘘もやめ、砂糖たっぷりのあたたかいミルクを飲む藍之介はとても幸せそうだった。
未だに十年前に入れた私のミルクが忘れられないらしい。ただ市販の牛乳に砂糖を混ぜてレンジでチンしているだけなのに、不思議だ。
藍之介の正体を知ってから一週間。
あっという間に試食会の日曜がやってきた。
葉月ちゃんが作成してくれたチラシは、パステルカラーを基調にした可愛らしいデザインで見やすい工夫がされていた。うちの飲み物や料理の写真が入った丸い枠をシャボン玉のように全体に散らし、店の名前は太字で大きくはっきりと、大事な地図も試食会の文面を邪魔しない程度に掲載されていた。
しかもこのイベントを話した翌日にはできあがっていたのだから驚きだ。時間と用紙を使わせてしまった費用を払うと言ったけれど、葉月ちゃんは断固として受け取らなかった。以前私に話を聞いてもらえて嬉しかったし、ミックスジュースのお礼だと笑ってくれた。
その大量のチラシを、みんなで手分けして配った。
張り切っていた風子は葉月ちゃんと、家や学校周辺を中心に。閻火と藍之介は私が店番をしている間に、駅前や商店街で。鬼の二人に至っては、最終的にはどちらが多くのチラシを捌けたかの勝負になったとか。
競い合いつつもなんだかんだ仲良くやっているようだ。さすが元上司と部下だけのことはある。
容姿や立ち振る舞いは以前と同じでも、口数と笑顔が増えた。
もう鬼であることを私に隠す必要もないため、地獄での思い出なども聞いてもいないのに話してくれる。
アルバイトの家庭教師をあっさり辞め、土日祝と学校が早く終わった日はうちで働くことになった。とはいえ無給だ。藍之介も閻火のようになにもない空間から物質を生み出せる。つまり鬼にとってお金など欲しければいくらでも手に入るのだ。人間の暮らしに溶け込むために大学は形だけでも一応続けるということだった。
それから藍之介の毎朝の習慣だった、モーニングがホットミルクになった。
本当はずっとそうしたかったのに、私がコーヒーの練習をしているため合わせてくれていた。
そんな気遣いの嘘もやめ、砂糖たっぷりのあたたかいミルクを飲む藍之介はとても幸せそうだった。
未だに十年前に入れた私のミルクが忘れられないらしい。ただ市販の牛乳に砂糖を混ぜてレンジでチンしているだけなのに、不思議だ。
藍之介の正体を知ってから一週間。
あっという間に試食会の日曜がやってきた。
葉月ちゃんが作成してくれたチラシは、パステルカラーを基調にした可愛らしいデザインで見やすい工夫がされていた。うちの飲み物や料理の写真が入った丸い枠をシャボン玉のように全体に散らし、店の名前は太字で大きくはっきりと、大事な地図も試食会の文面を邪魔しない程度に掲載されていた。
しかもこのイベントを話した翌日にはできあがっていたのだから驚きだ。時間と用紙を使わせてしまった費用を払うと言ったけれど、葉月ちゃんは断固として受け取らなかった。以前私に話を聞いてもらえて嬉しかったし、ミックスジュースのお礼だと笑ってくれた。
その大量のチラシを、みんなで手分けして配った。
張り切っていた風子は葉月ちゃんと、家や学校周辺を中心に。閻火と藍之介は私が店番をしている間に、駅前や商店街で。鬼の二人に至っては、最終的にはどちらが多くのチラシを捌けたかの勝負になったとか。
競い合いつつもなんだかんだ仲良くやっているようだ。さすが元上司と部下だけのことはある。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜
西浦夕緋
キャラ文芸
【和風BL】【累計2万4千PV超】15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。
彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。
亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。
罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、
そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。
「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」
李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。
「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」
李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる