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個性的な客
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それからというもの藍之介は変わった。
容姿や立ち振る舞いは以前と同じでも、口数と笑顔が増えた。
もう鬼であることを私に隠す必要もないため、地獄での思い出なども聞いてもいないのに話してくれる。
アルバイトの家庭教師をあっさり辞め、土日祝と学校が早く終わった日はうちで働くことになった。とはいえ無給だ。藍之介も閻火のようになにもない空間から物質を生み出せる。つまり鬼にとってお金など欲しければいくらでも手に入るのだ。人間の暮らしに溶け込むために大学は形だけでも一応続けるということだった。
それから藍之介の毎朝の習慣だった、モーニングがホットミルクになった。
本当はずっとそうしたかったのに、私がコーヒーの練習をしているため合わせてくれていた。
そんな気遣いの嘘もやめ、砂糖たっぷりのあたたかいミルクを飲む藍之介はとても幸せそうだった。
未だに十年前に入れた私のミルクが忘れられないらしい。ただ市販の牛乳に砂糖を混ぜてレンジでチンしているだけなのに、不思議だ。
藍之介の正体を知ってから一週間。
あっという間に試食会の日曜がやってきた。
葉月ちゃんが作成してくれたチラシは、パステルカラーを基調にした可愛らしいデザインで見やすい工夫がされていた。うちの飲み物や料理の写真が入った丸い枠をシャボン玉のように全体に散らし、店の名前は太字で大きくはっきりと、大事な地図も試食会の文面を邪魔しない程度に掲載されていた。
しかもこのイベントを話した翌日にはできあがっていたのだから驚きだ。時間と用紙を使わせてしまった費用を払うと言ったけれど、葉月ちゃんは断固として受け取らなかった。以前私に話を聞いてもらえて嬉しかったし、ミックスジュースのお礼だと笑ってくれた。
その大量のチラシを、みんなで手分けして配った。
張り切っていた風子は葉月ちゃんと、家や学校周辺を中心に。閻火と藍之介は私が店番をしている間に、駅前や商店街で。鬼の二人に至っては、最終的にはどちらが多くのチラシを捌けたかの勝負になったとか。
競い合いつつもなんだかんだ仲良くやっているようだ。さすが元上司と部下だけのことはある。
容姿や立ち振る舞いは以前と同じでも、口数と笑顔が増えた。
もう鬼であることを私に隠す必要もないため、地獄での思い出なども聞いてもいないのに話してくれる。
アルバイトの家庭教師をあっさり辞め、土日祝と学校が早く終わった日はうちで働くことになった。とはいえ無給だ。藍之介も閻火のようになにもない空間から物質を生み出せる。つまり鬼にとってお金など欲しければいくらでも手に入るのだ。人間の暮らしに溶け込むために大学は形だけでも一応続けるということだった。
それから藍之介の毎朝の習慣だった、モーニングがホットミルクになった。
本当はずっとそうしたかったのに、私がコーヒーの練習をしているため合わせてくれていた。
そんな気遣いの嘘もやめ、砂糖たっぷりのあたたかいミルクを飲む藍之介はとても幸せそうだった。
未だに十年前に入れた私のミルクが忘れられないらしい。ただ市販の牛乳に砂糖を混ぜてレンジでチンしているだけなのに、不思議だ。
藍之介の正体を知ってから一週間。
あっという間に試食会の日曜がやってきた。
葉月ちゃんが作成してくれたチラシは、パステルカラーを基調にした可愛らしいデザインで見やすい工夫がされていた。うちの飲み物や料理の写真が入った丸い枠をシャボン玉のように全体に散らし、店の名前は太字で大きくはっきりと、大事な地図も試食会の文面を邪魔しない程度に掲載されていた。
しかもこのイベントを話した翌日にはできあがっていたのだから驚きだ。時間と用紙を使わせてしまった費用を払うと言ったけれど、葉月ちゃんは断固として受け取らなかった。以前私に話を聞いてもらえて嬉しかったし、ミックスジュースのお礼だと笑ってくれた。
その大量のチラシを、みんなで手分けして配った。
張り切っていた風子は葉月ちゃんと、家や学校周辺を中心に。閻火と藍之介は私が店番をしている間に、駅前や商店街で。鬼の二人に至っては、最終的にはどちらが多くのチラシを捌けたかの勝負になったとか。
競い合いつつもなんだかんだ仲良くやっているようだ。さすが元上司と部下だけのことはある。
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