鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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「あ、藍之介のことは幼なじみで親友っていうか、肉親みたいに思ってるから、そんなふうに見れな」
「なら今から見てよ、僕なら結婚しても地獄になんて行かなくていいしなに不自由ない暮らしをさせてあげられるよ、あ、心配しなくても天邪鬼と人間の子孫の記録もあるから問題な」

 私の言葉を遮る藍之介の言葉を閻火が遮る。
 ただし真っ直ぐにとんがった角でこめかみを突く形で。
 勢いで横に跳ねた藍之介は、攻撃された箇所を手で押さえていた。

「痛ったいなぁ、なにするのさ」
「それはこちらの台詞だ、萌香は俺の妻、手出しすれば消し炭にするぞ」

 ふん、と鼻で笑う藍之介。

「その証は仮のものだろ、ワンクッション置くなんて、優しいじゃない大王サマ」

 どうやらこの指輪は鬼には見えるようだ。
 おそらく閻火が姿を消していても。
 となれば、藍之介は閻火がいる時来店してすぐ存在に気づいたのだろう。もちろん察知していることは露ほども見せなかった、ポーカーフェイスはさすがだ。
 
「当然だろう、無理強いは好かんからな。鬼だがお前のように鬼畜ではないのだ」

 藍之介は「はいはい」と気のなさそうな返事をしたあと続ける。

「……で、奥さん探しに人間界に来て何日経つのさ?」
「……じき一週間になる」

 閻火の思案するような含みを込めた返答に、藍之介は「へーえ」と少し意地悪そうに笑った。

「知らないよ、面倒な奴に大目玉を食らっても」
「余計なことを言うな」

 意味ありげな二人の会話に疑問を抱いていると、バタバタと床を蹴る足音が近づいてきた。
 それを察知した瞬間、二人の鬼は人間の姿に早変わりした。
 本棚の間から顔を見せたのはおじさんとおばさん……藍之介の両親だった。
 裏口から入ってきたらしい二人は、愛息子の顔を見るなり駆け寄った。

「六時になっても起きてこないから見に行ったら部屋にもいなくて驚いたぞ」
「ここにいたのね、よかったわぁ」
「やめてよ父さん母さん、僕はもう子供じゃないんだから」
 
 息子を亡くした思いが潜在意識の中にあるのだろうか。両親は藍之介を溺愛している。

「あいの……」

 僅かに名前を言い淀んだ時、藍之介は横目で微笑み「藍之介でいいよ」と唇の動きだけで語った。
 それはきっと、蒼牙が生涯を通して貫く優しい嘘になるだろう。
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