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赤鬼と青鬼
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思い出せなかった幼い日の藍之介。
素朴でそばかすがちな肌、病弱でいつも本を読んでいた。おばあちゃんの喫茶店で、いろんな話をした。
小学校高学年に上がる時、持病が悪化し帰らぬ人となった。はずなのに、葬儀の前日に息を吹き返した。奇跡が起きたと涙しながら歓喜する両親の顔。
そこからは私がずっと覚えている藍之介。
端正で抜けるような肌をした、人間の藍之介からすり替わった鬼の蒼牙。
天邪鬼となり人間界に放り出され、傷ついているところを助けた私のそばにいるために、命を失った藍之介になろうと決めた。
閉ざされていたのは藍之介から鬼を連想させる場面だけだった。
「……これで全部だよ、なんなら閻火に確かめてもらってもいい、君なら本物の記憶か判断がつくだろ」
「……必要ない」
私の様子で悟るように、閻火が短く返す。
十年も前に星になっていた遠い日の友達。
哀悼の意とともに彼が人を殺めていなかった安堵が湧き上がる。
冷たいものを口にしないことも、桃はアレルギーがあるからそばに置くのもダメだと言ったことも、鬼ならではの特徴だった。
バラバラに散らばっていたピースがぴったり当てはまったような、清々しい答え合わせだった。
藍之介は私の額から指を離すと、踵を返した。
無言で遠ざかる背中。いつになく小さく見える後ろ姿に、もう二度と失いたくないと願った。
「藍之介!」
私の呼びかけに、出入り口の扉に手をかけていた彼が、動きを止めた。
「また……あったかいミルク、飲みに来てよ」
考えるよりも先に、心がものを言った。
取っ手にかかった細い手が震えている。
あれからどれくらい経ったのだろう、射し込む陽光がガラス越しに藍之介を照らす。もう夜明けが近い。
「僕は君にひどいことをした、人間だった藍之介の親も、周りのみんなも欺き続けている」
「でも私は救われた、あいの……蒼牙がいてくれたおかげで、たくさん元気づけられたんだから」
素朴でそばかすがちな肌、病弱でいつも本を読んでいた。おばあちゃんの喫茶店で、いろんな話をした。
小学校高学年に上がる時、持病が悪化し帰らぬ人となった。はずなのに、葬儀の前日に息を吹き返した。奇跡が起きたと涙しながら歓喜する両親の顔。
そこからは私がずっと覚えている藍之介。
端正で抜けるような肌をした、人間の藍之介からすり替わった鬼の蒼牙。
天邪鬼となり人間界に放り出され、傷ついているところを助けた私のそばにいるために、命を失った藍之介になろうと決めた。
閉ざされていたのは藍之介から鬼を連想させる場面だけだった。
「……これで全部だよ、なんなら閻火に確かめてもらってもいい、君なら本物の記憶か判断がつくだろ」
「……必要ない」
私の様子で悟るように、閻火が短く返す。
十年も前に星になっていた遠い日の友達。
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冷たいものを口にしないことも、桃はアレルギーがあるからそばに置くのもダメだと言ったことも、鬼ならではの特徴だった。
バラバラに散らばっていたピースがぴったり当てはまったような、清々しい答え合わせだった。
藍之介は私の額から指を離すと、踵を返した。
無言で遠ざかる背中。いつになく小さく見える後ろ姿に、もう二度と失いたくないと願った。
「藍之介!」
私の呼びかけに、出入り口の扉に手をかけていた彼が、動きを止めた。
「また……あったかいミルク、飲みに来てよ」
考えるよりも先に、心がものを言った。
取っ手にかかった細い手が震えている。
あれからどれくらい経ったのだろう、射し込む陽光がガラス越しに藍之介を照らす。もう夜明けが近い。
「僕は君にひどいことをした、人間だった藍之介の親も、周りのみんなも欺き続けている」
「でも私は救われた、あいの……蒼牙がいてくれたおかげで、たくさん元気づけられたんだから」
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